『もしも僕に十字架が』

 

どうしたらいいかなんて、わからなかった。

信じていいのだろうか。
けれど、敵じゃないのか?

戸惑いと混乱で頭はパンク寸前で。

けれど、003へと飛んで来た円盤を見た瞬間、体が動いていた。

オカアサン。

001を、赤ん坊を抱いた彼女に母の姿を重ねていた。
顔も知らない母に、その姿を重ねていた。
庇わないと、助けないと。
本能的にそう思った。

「これを使え…!」

初めて見るはずなのに、その銃の性能を良く知っていた。

体は、頭脳は、戦い方を知っていた。

かちりと奥歯のスイッチを噛むだけで辺りの速度は一気に遅くなる。

銃を撃つ。

モードの切り替えも、打ち方も、全て知っている。

ああ、僕は…

僕は、どうなってしまったんだろう…。




風が、通り抜けた。

一瞬の内に襲い掛かって来た円盤は地に崩れ落ちていた。

岩の上に着地した彼の、その眼が。

振り返った少年のその赤い瞳が、くっきりと脳裏に焼き付く。

そして。

その、戸惑いと、憂いを帯びた表情も。

「…想像以上の完成度だな」

彼の何もかもに、目を奪われた。



「これから格納庫へ向かう。そこで飛行船をぶんどってこのBGからおさらばってワケさ」
これで自由の身になれる、と言う002の言葉に、彼等が敵ではなく、反逆者だと知った。

閉じ込められたその場所で、僕は全てを知った。
見覚えのある博士たち。
反乱。
「与えた?感謝して欲しいような口振りだな」
無理矢理与えられた力。
「好き好んで改造されたって言うの?!」

「…改造…?」

<ソウ、ボクタチハ改造サレタンダ>

改造、された?

改造って、人体実験?

…サイボーグ?

そんな、という思いと、やっぱりな、という思いがせめぎ合う。
超人的な力。
普通なら有り得ない力。
薄々は、感付いていた。
けれど、心の何処かでそんなはずはない、と否定していた。

だけど、今更、なのかもしれない。

ここでの自分の立ち場は人間でも何でもない。
ただのサンプルだ。
今まで薬剤実験だけで済んでいたのが奇跡の様なものだったのだ。
これが現実だ。

「撃つなー!撃たないでくれ!」

彼らの後を追いながら、漠然と思う。

僕は、どうすれば。

僕は、どうしたいんだろう。

もう二度と手にする事が出来ないだろうと思った自由。
それが、手の届く場所に、もう少しの場所にある。
そう、彼らについて行く。
それだけでいいんだ。
それだけで、あれだけ渇望した自由が取り戻せるんだ。
疾うに無くしたはずの思いが蘇る。

パラパラパラ…と飛行船のプロペラが回り出す。
ゆっくりと、やがて目に見えぬほどの早さで。

このまま行けば、僕は…

戸惑いに、足が止まった。





(続く)

戻る