『君がくれた愛の名を』
ガシャ、カシャン…ズッ…ズルッ… 耳障りな音を立てながらそれは街の暗い路地を進んでいた。 『…破損率91%……自己修復プログラムニヨル修復率7%……予備燃料残リ17%…完全停止マデアト14分…』 機械の脳は淡々と己の死期を告げていく。 死を恐れる感情の無いそれはただひたすら目標を目指して進んでいた。 004の抹殺。 それがそれに与えられた指令だった。 それ以外の事は004のデータと戦いのノウハウ位なもので。 それに感情がある筈も無い。 それは、完全なる機械なのだから。 数パーセント、辛うじて人の部分を残した004とは違い、完全に機械のそれはただインプットされた指令を遂げる事しかない。 後少しで大通り、という所で派手な音を立ててそれは倒れ込む。 下半身の機能が完全停止したのだ。 最早残り燃料は頭脳と修復機能のみに回されている。動く事は叶わない。 ビービービーと言葉にならない信号が頭の中を駆け巡る。 『…破損率87%……自己修復プログラムニヨル修復率11%……予備燃料残リ9%…完全停止マデアト7分…』 ただ刻々と己の死を告げるシグナル。 「あれっ?!」 途絶えかけている聴覚回線が、音を拾った。 声だ。 「ハインリヒ?!」 登録されている004の本名に回線が反応する。 「違う…でも、どうしてハインリヒに似てるんだ…?」 残り僅かな燃料で視力を働かせる。 抱き起こされ、見上げた先には茶色の髪に赤い眼をした少年だった。 004のデータにある少年だ。 ちかっちかっとそれの目が緑に点滅する。 『…新規登録開始…新規登録開始……』 今更無意味な行為だったが、まず分析、それが行動パターンとして登録されている以上死に掛けていようがやる事は変わらない。 無理に他回線を使用した為か、がくがくとその体が痙攣を起こす。 それを見た少年は一瞬慌てふためいたものの、すぐさまその機械仕掛けの体を担ぎ上げた。 「…とにかく、ギルモア博士の所へ連れて行こう」 少年は人目に付かないルートを選び、ドルフィン号へと急いだ。 ドルフィン号へ戻ると、そこにはギルモア博士しか居なかった。フランソワーズはどうやら出掛けているらしい。 少年が連れて来た仲間そっくりのロボットにギルモア博士は驚きを隠せぬようだったが、すぐにメディカルルームへ運び込み、修復に取り掛かった。 何時間にも及ぶ作業の末、最低限の修復は終わり、一度起動させてみようという事になった。 「よし、起動させてみよう」 「博士、下がっていて下さい」 明らかにBG作のそれを修復したのは何か情報が得られないかとの事だったが、起動した途端襲ってくる可能性も十分有り得る。 関節などを改造し、俊敏さや力を落し、ミサイルなどの弾は全て取り除いてあるものの、用心に超した事は無い。 「……」 二人が息を飲む中それは置き上がった。 見つけた時点でかなり人工皮膚が焼け落ちていたが、修復の際にも幾ばか剥がした為に今のそれはどちらかといえば機械の肌を曝している部分の方が多い。 『……』 キュィィ、と音を立ててそれは緑に光る眼で二人を見た。 否、少年一人を見ている。 ちかっちかっと何度か点滅した後、くい、と軽く首を傾げた。 「ぁ……」 それがどうにも人間らしい、それも子供の様な傾げ方に二人は些か拍子抜けだ。 『…名、ハ…』 しゃがれてはいたものの、確かにハインリヒと同じ声に少年は目を丸くする。 『…名、ハ……』 尚も繰り返すそれに、少年はいつでもスーパーガンを抜ける様にと構えていた腕を下ろす。 「…ジョー。島村ジョー、だよ」 困惑げに、それでも律義にそう返すとそれはまた緑の目を点滅させた。 『…島村、ジョー…』 ぎぎ、と動き辛そうにそれは腕を上げ、己に纏わりつくチューブやコードを引きぬくとぎこちない動きで台の上から降りる。 『…ジョー…』 殺意の見られないそれに、ジョーがさせたい様にしてみると、それはジョーの目の前まで来た途端、がしゃん、と片膝を付いた。 『…マスター…ゴ命令ヲ…』 「はえっ?!」 ジョーの素っ頓狂な声がメディカルルームに響いた。 「ジョーってばまた変なもの拾って来たのね!」 片手にミルク缶の入った袋を提げたフランソワーズはドルフィン号へ戻るなりそう呆れた声を出した。 「またって…拾って来たのってこれが初めてだと思うんだけど…」 「例えよ!」 控え目な反論も切って捨てられてしまい、ジョーはこそこそと「彼」の後ろへ隠れる。 「まあまあ、どうやら完全に009を主人と見ている様じゃし、機能を直せば心強い仲間になる」 「博士までっ」 「大丈夫じゃよ、003。彼はプログラムに忠実じゃ。裏切りは有り得ない。既にBGの情報は引き出して彼の中からは完全に消してある。BGに操られる事はもう無いじゃろ」 「でも…004が知ったらどう思うか…」 今の「彼」は既に人工皮膚を定着させ、すっかり元どおりと言っても良いだろう。 つまり、見た目上、004が二人居るといっても過言ではない。 「でも、放っておけないよ…」 しょんぼりとして言うジョーに、フランソワーズは深い溜息を吐いた。 惚れた弱み。惚れた方が負け。 そんな言葉が頭の中を横切る。 「…他のみんな、特に004が納得すれば私は構わないわ」 仕方無しにそう妥協案を出せばジョーの沈んだ顔は嬉々とした笑顔に変わった。 「ありがとうフランソワーズ!!」 「どういたしまして」 この笑顔に自分は弱いのだ。 004が断固として反対してくれる事を祈り、フランソワーズは大きな溜息を吐いた。 (続く) えーっと、分かる人には分かるサイボーグ009ネタでっす★(…) 「機々械々」のアルベルトを思い出していて、そういえばあのロボットはどうしたんだろう・・・と思った所、無性に書きたくなってしまって・・・最近足跡ばかり書いていたので良い気分転換になりました。(笑) え?ギルモア博士のロボットですか? アレは完全に機能停止しました。(笑) んで、この回は友人がビデオに撮ったのを見たので記憶があやふやです。 ちなみに地理がサッパリなので出来るだけ出さない様に頑張りました。(爆) だって私の頭の中は004の裸体(笑)とニセ004の頭の高速回転とあの素晴らしい走りその他諸々…でいっぱいなんですもの!地理なんて入り込む隙間すらないわ!!(…) あ、それとこの回、飛行機で来てるんだからドルフィン号って・・・つーツッコミは無しねv確信犯です。(爆) やー私的には49←2が一番好ましい図式なんですが、これも良いかもしれませんねv(笑) 他には59とかも好きです。アポロン×ジョーとかスカール×ジョーとかマニアックなトコも好きなんですが、それは熱弁すると周りが引きかねないので止めておきます。(え?手後れ?) フラン嫌いです。(突然) ウチのパソもフランが嫌いのようです。 何度カタカナ入力しても「フラン」を「腐乱」と高い確率で変換します。 気の合うPCで嬉しい事です。(笑) |