『君がくれた愛の名を』

 

日本に戻って来て数日が経過した。
「アル、そこの…うん、それ、その本取ってくれる?あ、ありがとう」
声の主は009こと島村ジョーだ。
「いや…礼を言われるまでも無い」
そう答えるは004ことアルベルト・ハインリヒ…ではない。
見た目、声はそれこそ並ばれたらどちらが本物か分からないくらいそっくりなのだが、彼はサイボーグではなく、完全なロボットだった。
本来は004抹殺の為に送り込まれたロボットだったが、激闘の末、アルベルトはこれを撃退した。
だが、それを仲間に話さなかった事が第一の原因と言えよう。
予備燃料の限りしつこく追って来たロボットをジョーが見つけてしまったのだ。
何も知らない彼は偽者とは分かりながらも仲間と同じ姿をしたそれを放っておく事が出来ずギルモア博士の元へと運び込んだのだ。
その精巧な造りにBGに造られたロボットだと確信したジョーとギルモア博士は、何か情報を得られないだろうかと最低限の修復を施した。
すると起動したそれはなんとジョーを主だと認めたのだ。
恐らく頭部の損傷が記憶回路を掠めていたのだろう。
大した情報も無く、向こうからの命令受信回路だろうそれらを一切外し、BGに操られる事のないように処置を施した。
それ以来、それは004とその身辺のデータだけを残し、今やジョー専属ボディガードの様な物だった。
共にこの屋敷に住んでいる者たちの理解を得るには然程時間を要しなかった。
グレートは面白可笑しそうに二人を眺め、張々湖も慌てふためきながらも結局は認めてくれた。
難関かと思われたイワンも「良いんじゃない?」と非常にあっさりとしたものだった。
「アル、体の方、もう大丈夫?」
心配げに見上げてくる主に彼は苦笑する。
「大丈夫だ、ジョー。そんなに心配するな」
彼が主をジョーと名前で呼ぶのは主自身の要望だった。
そしてこの口調もそうだ。
主はただ「敬語は止めて」と言っただけなのだが、それ以外の口調となると彼にインプットされている004の口調しかデータに無い。
となると自然、本物の004に一層近付いた形となった。
「ねえアル、」
主は彼を「アル」と呼ぶ。
それに習ってか他のメンバーも彼を「アル」と呼んだ。
勿論これは「アルベルト」の「アル」なのだが、彼等にとっては最早「アル」は「アル」であり、「アルベルトのロボット」では無くなりかけていた。
そして他のメンバーだが、実の所、004以外のメンバーには既に連絡が取ってある。
皆一様に近い内に見に行く、と約束を交わして電話を切った。
特に002ことジェット・リンクはそれはもう愉快そうだった。
今頃は飛行機に乗る間も惜しんで飛んで来ているのかもしれない。
強ち冗談と言いきれない所が彼が彼たる所以だ。
そして問題の004本人はというと。
「あ、ハインリヒ?ちょっと日本に来れないかな?えっ?えっと、その…うん、まあ緊急ってワケじゃないんだけど…その…驚かないで聞いてくれる?あのね…」

『なにぃぃぃーーー!!!!!』

ギルモア邸にドイツからの怒声が響き渡った。
「……は、はいんりひ…」
それを間近で聞いてしまったジョーはくらくらとする頭を振って受話器を落さない様しっかりと握る。
『お前それはBGのロボットなんだぞ?!』
受話器を腕一杯離していても十分聞き取れる声量にジョーは「あはは…」と引き攣った笑みを浮かべる。
『俺が苦労して倒したってえのに何を考えてるんだお前さんは!!』
「えっ!」
初耳な内容にジョーは耳が痛いのも構わず受話器に耳を付ける。
「ちょっとどういう事さ!そんな事聞いてないよ?!あ!!あの時ぼろぼろだったのってそういう事?!なんで言ってくれないのさ!!」
『あ、いや、それは、だから…』
一瞬にして立場の反転してしまい、電話の向こうは怒声から慌てた声へと一転する。
「始めっからそれ言っててくれたら拾ってなんて…!」
そこまで言ってはっと言葉を止める。
すぐ後ろではアルがじっとジョーを見詰めている。
「あ…その……」
ジョーがおどおどとした視線で彼を見ると、気にしなくて良い、と静かな声が返って来た。
「俺はロボットだ。お前さんの言葉一つに傷付く事は無い」
淡々とした言葉に、ジョーの表情は一気に哀しげなそれへと変わった。
因みに電話の向こうで己と同じ声が聞えたアルベルトはと言えば、受話器が悲鳴を上げそうなほど耳をくっ付け、一言たりとも逃さぬように頑張っている。
「そういう哀しい事、言わないでって…僕、言ったよね…?」
主の憂いの表情に、彼はジョーに歩み寄ってその頬に手を伸ばす。
「…すまない、ジョー」
余談だがこれまた電話の向こうでは「誰の許可を得てジョーを呼び捨てにしてやがる!」と内心マジギレ一歩手前状態だった。残念ながらジョー本人より許可どころか申請を得ています。
「うん……ってそうだハインリヒ!」
「良いか、ジョー!すぐ日本へ向かう!すぐにだ!分かったな!!」
すっかり忘れられていたアルベルトはそう怒鳴り付けて受話器を力いっぱい下ろす。
がっちゃんっと派手な音を立てて電話機が砕ける。御愁傷様です。
そんな事も気にならないほどアルベルトは慌てて荷造りを始める。
「くそっ!ジョーが危ない!」
ヤツは俺の全てをコピーしていた。
攻撃パターン、防御パターン、俺のあらゆるデータがヤツには詰っている。
俺のデータ満載の機械がジョーの近くに居るだと?!
「ジョーの貞操が危ない!!」
最小限の荷物を手に、アルベルトはそう叫んで部屋を出ていった。
一番危ないのは貴方です。






(更に続く)
いい加減眠気も手伝ってキャラが違ってます。
まあ良いよ、どうせ遊んで書いただけだし・・・(爆)

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