プランツ
〜アデミルの場合〜


私の名はアデミル。
正式にはアデンミリヤム・イル・キムラスカ・ランバルディア。
キムラスカの現国王であるアインダルバス王の長男だ。
来月、私の成人の儀が執り行われる。
その儀の打ち合わせに、何故かお祖母さまも一緒に来ていた。
相変わらずの若々しい容姿。
これでもうすぐ曾孫まで生まれるというのだから驚きだ。
更には彼女の胎の中でも新たな命が育っているのだから、最早驚きを通り越して感嘆する。
彼女の子供たちは、いい加減呆れ果てていると聞く。
しかし彼女はいつものように照れて笑うだけで、気にした素振りもない。
恐らく、お祖父さまも同じような感じなのだろう。
いや、あの方のことだから、お祖母さま以上に楽しんでいるに違いない。

「どうしたの?アデミル」

穏やかな声にはっと我に返る。
ここはバチカルの王城にある、私の私室。
丸いテーブルを挟んで向かい合う、私とそう年の変わらないように見える祖母。
思考の海から嗅覚も浮上すると、手元のカップからベルガモットの香りが漂い、鼻を擽った。
「いえ…ここ数日、儀の打ち合わせで慌しかったもので…」
咄嗟に言い訳じみた事を吐く。もう少し気の聞いた言い方があるだろう。
これではお祖母さまに気を使わせてしまう。
己の機転の利かなさに舌打ちしたくなる。
しかしお祖母さまはやんわりと微笑み、カップに添えられた私の手をそっと握った。
「少し、隈ができてる」
慌てて目元を押さえるという失態は侵さなかった。
重ねられた手が暖かい。
お祖母さまの手は不思議だ。
まだ私が幼かった頃、同い年の叔父であるデファンとよく遊んでいた。
好奇心旺盛な年頃もあり、始終泥塗れ、傷だらけになっていた。
そんな私たちを彼女は湯殿へと誘うのだが、結局彼女も混ざって湯殿ではしゃいではメイドに叱られていた。
そしてほこほこになった私たちは、傷だらけの腕や脚、頬を彼女にそっと撫でてもらうのだ。
するとどうだろう。無数の擦り傷や切り傷が、あっという間に消えてしまうのだ。
そうして彼女は今度は気をつけるんだよ、と笑うのだ。
譜術で傷を治すのとはまた違った、暖かなそれ。
お祖母さまの血を引いたものしか受けられない、その恩恵。
当然彼女と血の繋がりの無いお祖父様が、ずるい、と年甲斐も無く駄々を捏ねていたのを覚えている。
そして今も。
「…余り無理はするなよ?」
重なった部分から緩やかに暖かさが廻り、疲れを取り除いていく。
「はい…お祖母さま」
そっと離れていく掌。惜しいと思う己を叱責する。


惜しむ思いが何処から来るものなのか…私自身、わからなかった。






*****
久々のプランツ子供編。
デファンの親友でありエルーシャの息子であるアデミル。
この時点でナタリア女王とガイラルディア王配は既に引退し、
その息子のアインスが後を継いでます。なのでアデミルが第一継承者。








拍手ありがとうございましたvv



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