プランツ
〜長女・レティの場合〜


彼女は深緑の豊かな髪を揺らし、廊下を歩いていた。
その足取りは齢十五の少女にしては力強く、それに見合うだけの足音を響かせている。
腰より長く延びたその髪は、ストレートのわりにふわりふわりと揺れており、その柔らかさを示していた。

彼女がこうも足音高く、そして力強く歩くのには理由があった。

彼女の髪は深い森と同じ色をしている。
しかし彼女の両親も弟妹たちも、況してや親族ですら緑の髪を持つ者はいなかった。
瞳こそ母と同じ翡翠の色だが、しかしこれも翌々見比べてみると、自分一人がより深い色合いをしている。
その為に幼い頃から彼女は心無い中傷を受けてきた。
しかし両親に泣きつくと彼らはその都度、
「お前は俺たちの子だ」
と時には笑って、時には真剣に、または怒って、それともあっけらかんとして答えるので、彼女はそれを信じた。
例え周りが何を言おうと私は私。
父様と母様の一人目の娘だわ。
彼女はそう胸を張って生きてきた。元々強気な性根を持つ彼女にとって、一度開き直ってしまえばそれは容易な事だった。
しかし今でも陰でコソコソと言葉を交わす者達がいることも知っている。
だから彼女は踵を鳴らし、胸を張って歩くのだ。

さあ!私はここにいる!
文句があるのなら直接言いに来い!

「レティ」

そんな少女を呼び止める声があった。
足を止めて振り返れば、思ったとおり彼女の母親が穏やかな笑みを浮かべて歩み寄ってくる所だった。
「あら、母様。何かしら?」
レティの記憶が確かなら、この母は三十も半ばのはずである。
しかし彼女は未だ少女の面影を十二分に残しており、二人の関係を知らない者が見たら姉妹にしか見えないだろう。
その母はレティよりも更に長い焔色の髪の一筋を指先でくるくると弄りつつ、上目遣いに娘を見た。
「あのさ、その…」
彼女は「えへへ」とまるで母親らしくない幼い笑い方をして言い澱む。
レティはピンときた。
「…母様、まさかまた、なの?」
すると彼女は愛らしく頬を染めてはにかんだ。
「一ヵ月半だって」
つまり、子供が出来た、と母は言いたいのだ。
新たな弟妹が出来ると知ったレティは、本来なら慶事であるその報告に形の良い眉を寄せ、大きな溜息を吐いた。
「夫婦仲が良いのは嬉しい事だけれどね、もう少し計画性を持って貰えないかしら?」
しかし母は更に顔を赤くして誤魔化すように笑うばかり。
娘の自分から見てもそれはとても愛らしく、父には悪いが彼には勿体無いとつい思ってしまう。
「それで、父様は知っているの?」
「ううん、まだこれから。レティが一番だよ」
新しい家族の存在を一番初めに教えてもらえた。
ただそれだけの些細な事なのに、レティは嬉しくなって笑った。
「だったら、一緒にみんなに知らせに行きましょうよ。ね、母様」









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超フライングでプランツネタEDその後話。
繁殖機能どころか生殖器すら無いプランツがどうして、というのはまあ追々。
更に第一子のレティ、レイチェルが何故緑の髪なのかも追々。
バレバレですけどネ。(笑)








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