『楽園』の肖像


事の始まりは、キムラスカ領キュピ半島の東南より高濃度の第七音素が観測されたことに因る。
報告を受けた当時マルクト軍中佐の男は、そこに不審を抱いた。
その数値の波の形に、彼は見覚えがあった。
もう何年も前に封印したはずの背徳の技術の一つ。
生物――しかも波形の大きさからしてそれは人である可能性が高い――に対するフォミクリー。

彼は幼馴染でもある若きマルクト皇帝の了承を得て、キムラスカの地に足を踏み入れた。

キュピ半島の東南、そこにその城は聳え立っていた。
コーラル城。
廃れて久しいはずのその城内に一歩足を踏み入れた時点で彼は気付いていた。
その不自然な空気に。
澱まぬ空気。かき消された足跡。明確な目的を持つ、魔物を模った譜業人形。
明らかな、人の意図を感じずにはいられなかった。

カタン

風の音に紛れてしまいそうな程の微かな物音さえも、彼の聴覚は捉えた。
魔物ではない、人の気配。
彼は無言でそちらへと足先を向けた。利き手にはいつの間にか一振りの槍が握られている。
半ば崩れた柱の影から一対の白い脚が覗いていた。
死体にしては変色がない。歩み寄る。
果たしてそこに力なく座り込んでいたのは生きた子供だった。
焔色の長い髪と意思の窺えない翡翠の瞳。
襤褸布を巻きつけただけの小さな肢体。
彼は察してしまった。
この子供が自らの罪から生まれた存在だと。
そして、その被験者が誰であるかも。
赤い髪に緑の瞳はキムラスカ王族に連なるものの証。
そしてこの年頃の赤髪翠眼の王族と言えば、一人しかいない。
つい先日その姿を消したとされる、ファブレ公爵と国王の妹であるシュザンヌ夫人の一人息子。
その姿を見たことはなかったが、恐らく間違いないだろう。
この事態が本人の意思に沿う物なのかはともかく、ファブレ子息はこの城のどこかにあるだろうあの忌まわしき譜業によってこの子供、レプリカを造られた。
男は片膝を着き、子供の目前でパン、と手を叩いてみる。
しかし、反射で瞬くだけでそれ以上の反応はない。
くいっと子供の顎を持ち上げ、その瞳を覗き込む。
すると子供の瞳が微かな意思を以って揺らいだ。
幼い唇が薄く開かれる。
「……ぁー…」
形にならないただの呻き。
しかし子供はじっと男の真紅の瞳を見上げている。
「…ぅあ…」
徐に、そして無遠慮にその小さな手が男の目前に迫り、その意図を察した彼は咄嗟に身を引いた。小さな手が虚空を掴んで落ちる。
「おやおや、いけませんよ。人の眼を無闇に触ろうとしては」
「…ぁー……」
この子供はここに棄てられたのか、それとも置いていかれたのか…ともあれ見つけてしまった以上――そして禁忌の子供であると察してしまった以上――この子供を置き去りには出来ない。
「失礼しますよ」
男は律儀に断りを入れてから、その子供の両脇に手を差し入れて子供を立たせた。
しかしくたりと弛緩した身体は立つという事を知らず、ただほうけた眼で男を見ているだけだ。
「やれやれ、仕方ないですね」
男は子供の軽い身体を左肩に担ぎ上げた。
「城を出るまではこれで我慢してください。利き手が使えないのは困りますから」
まるで米俵でも運ぶようなそれに不平の声が上がることも無く、米俵より遙かに軽いその子供はただ目前一杯の男の背中を、というよりはその黒衣を逆さまの視界で眺めていた。

だから子供は気付かなかった。
自分が座り込んでいた場所を遠ざかり、やがては日の光の下に出た事も。















『1208号地点調査報告』


それを一言に纏めるのなら、「異常なし」

















***
やらかした。今日一日ずっとタルタロスルークネタ考えてた。やらかした。
だから、だからさ、設定が混ざって混乱するからせめてもうちょっと他のが進んでからってそんな事してたらネタが腐るわぁ!って私が混乱するっつってんだろ!!…とまあ自業自得ジーザス!な気分です。(爆)






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