『楽園』の肖像




ルークはどちらかというと暇だった。
今までは、自分が起きている間は大抵誰かが話しかけてきてくれたからだ。
しかし現在ここにはピオニーはおろか、このタルタロスの責任者であるはずのジェイドすら居ない。
更にはメンテナンスを担当してくれていた人たちも居ない。
ピオニーは帝都だし、ジェイドは出て行ってしまった。
他の優しい人たちも全員殺されてしまった。
ルークはそれを寂しいと思うことも、このタルタロスを拿捕した神託の盾を憎く思うことも無い。
ただひたすらに暇だった。
それは微かな寂しさを伴うものだったが、負の感情の磨耗が激しいルークにとってそれはいずれ消えてしまうものであり、どうでも良いことだった。
そして暇を持て余したルークは悪戯っ子と化した。
羊水の様な液体の中、腕を伸ばして意識を集中する。
ぴんと張った指先に目的のものが現れ、そこに指先を潜り込ませていく。
かき混ぜるように数度指を動かし、そしてそこから指を引き抜いては次の場所へ指を潜り込ませていく。
すると液体に浮かび上がった無数の艦内の映像が慌しく動き始めた。
右へ左へと神託の盾兵が駆け巡り、突然の出来事に慌てふためいている。
とりあえず、今回は突然動力炉を停止させてみた。
勿論予備の動力炉もプロテクトをかけて手出しできないようにしてある。
同時に音素灯も全て消してみる。薄暗い闇の中、復旧に急ぐ神託の盾騎士団。
艦橋では金の髪を結い上げた女性が指示を飛ばしている。
くつくつと喉を鳴らしながらルークは更に指先をひらめかせた。
暗転したモニター。画面いっぱいに浮き上がるフォニック言語。
『出て行け』
広がる動揺、慌てる人々。叱咤する女。
ルークはけたけたと笑いながらその場で一回転する。
しかしすぐにその表情は色を無くし、弛緩した身体は溶液の中をゆらりと漂った。
ああ、暇だなあ…。






***
アッシュたちがバチカルに戻ったくらい?まあ特に決めてません。
拿捕されてからのルークの日常。
ルークは自分の意思で起動したり眠ったりは出来ないので凶悪な悪戯っ子と化しました。
暇と思う感情はあるけれど、それを苦痛と思う感情は既に麻痺してます。
喜怒哀楽でいうなら怒哀は殆ど擦り切れてます。






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