いつわりの花園






瘴気満つる鉱山の街、アクゼリュス。
健常者でさえ息苦しさを感じる中、ルークは一人平然としていた。
想像以上の有様に、アッシュたちが街を周る間、ルークは危ないからと宿屋に押し込められていた。
アッシュがここから出るなと強く念を押していったのだから、出てはいけない。
ルークは退屈を持て余しながらも、アッシュの言いつけどおり大人しくしていた。
暫くしてじっとしているのに飽きたルークがベッドの上をごろごろと転がっていると、廊下の方で慌しい声が聞こえてきた。
曰く、親善大使一行が落石に遭い、第14坑道に閉じ込められてしまった、と。
それを聞いたルークは驚いて飛び起きた。
ルークが普通の人間で、アッシュと同じくらいの年を重ねていたならばわざわざ部屋の前で騒ぐその声に訝しいものを感じただろう。
しかしルークにそんなことは分からない。だが「親善大使一行」がアッシュたちを指す事は理解できた。
ルークは部屋を飛び出した。
ただ、彼に会いたいがために。



第14坑道への道は簡単だった。古びた看板がルークに道を指し示していたのだから。
ただ運が悪かったのは、そこに至るまでに仲間たちに出会わなかったことだ。
アッシュでなくとも、誰かしらと出会っていたのであれば恐らくルークは事実を知り、先へと進まなかっただろう。

そして、悲劇を免れる事が出来たかもしれない。

しかしルークは辿り着いてしまった。
第14坑道。
暗闇を恐れる心を持たず、暗闇の中でも気配で物の位置が分かるルークに坑道内の薄暗さは問題ではなかった。
やはりここにも人影は無い。しかしルークにはそれを妙だと疑う心は無かった。
プランツにとって世界とは、1と0で構成されており、2も無ければ小数点も存在しない。
ルークにとっても世界とはこれ以上に無いほど明瞭で、その心に迷いや疑念は始めから持ち合わせていなかった。
アッシュに逢いたい。
ルークにとっての真実は、ただそれだけだった。






ルークが第14坑道へ向かっている頃、アッシュは神託の盾兵に呼び止められていた。
曰く、総長が呼んでいる、と。
そういえばアクゼリュスに先遣隊として来ているはずのヴァンたちの姿が無い。
彼らの元へ案内されるのだろうと思いながらついて行くと、同じように神託の盾兵に連れてこられた少女がいた。ティアだ。
「アッシュ?どうしてここに…」
街の出口へ向かう道の途中で二人は足を止めた。神託の盾兵が急かす。
「俺はヴァンに…」
何かがおかしいとアッシュは本能的に思う。
何故、神託の盾がこんな大勢居る?
数人程度ならヴァン率いる先遣隊のメンバーだと思ったのだが、街の出口に近づけば近づくほどその数は増していく。
「おい、キムラスカからの先遣隊はどうした」
「任務につきお答えできません」
「俺は親善大使だぞ。状況を把握する必要がある」
「お答えできません」
埒が明かない。
ティアへと視線を向けると彼女も思うところは同じなのだろう、小さく頷いた。
「まだ坑道の方が未調査だ。ヴァンは待たせておけ」
引き返そうとする二人の前に神託の盾兵が立ちふさがる。
「なりません。お二方を一刻も早く街から出すよう言われております」
「ならば力ずくで通るまでだ」
きちり、と剣の柄に手を掛け、ティアもまたナイフを取り出す。神託の盾兵も剣を構えようとしたとき、猛獣の咆哮が澱んだ大気を震わせた。
「なっ!何故ライガが…!!」
神託の盾兵が悲鳴のような叫びを上げる。
突如として現れた二頭のライガがアッシュたちを取り囲んでいた兵を薙ぎ倒していく。
「…早く、ルークの所、行く、です…」
現れたのは桃色の髪とオールドローズの瞳を持つ陰鬱な表情の少女。妖獣のアリエッタ。その傍らには四頭の幼いライガを従えている。
「何故あなたが…」
アリエッタは二人を睨み付けた。
「あなたたちは大嫌い、です…でもルークはこの子達のママ…アリエッタのお友達…だからルーク、助けます…」
「ルークに何かあったのか?!」
「…この子達、ルークの居場所、分かる…」
お行き、とアリエッタが幼いライガたちに声をかけ、幼ライガはアッシュとティアの間を駆け抜けた。
それを呆然と見ていると、彼らが振り返って幼いながらも一声吼えた。
さっさと来い。そう言わんばかりに。


駆け去る後姿を見送り、アリエッタはぬいぐるみを抱く手に力を込めた。
「ごめんなさい、総長…でも、」
俯く少女の呟きは風に乗ることも無く、ただ消えていった。










***
とりあえず、崩落まで突っ走ろうかと。
ゲームン周目自体がデオ峠で止まってるので、そこからの記憶があやふやで・・・。なので一度他の連載とも足並みをそろえるためにプランツの方がアクゼ崩落までやらかしたらドレイチの方へ戻ろうかと。
アクゼはホントキツイなあ…「残酷」の別名を冠するだけあるよ、アクゼリュス…。バチカルが「無神論」というのは何となく笑えたのですが…。そういえばよく考えてみるとキムラスカ側ってよろしくない名前ばかりですな…。
幼ライガたちはそのうちルークが名前付けると思いますが、いつもどおりヒンドゥー系から考えようと思ったのですが、たまにはゾロアスター辺りから取りたいなあーなんて。どうでもいいですね、ハイ。






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