いつわりの花園







――そろそろか。


『アッシュ様』


――そら来た。


「入れ」
読んでいた本から視線を上げることなく告げると、視界の端で扉が開いてメイドが入ってくる。
「失礼します。ルーク様のミルクの時間で御座います」
しかしアッシュは微動だにしない。
「俺は知らん。何度も言わせるな」
「ですが、ルーク様は…」
「くどい」
ぱたり、と本を閉じてメイドへ視線を向けた。
「アレの事はお前たちに任せたはずだ。下がれ」
「…承知いたしました」
悲しげに視線を伏せて辞儀をして出て行くメイドの姿に小さく舌打ちしてアッシュはベッドの上に手にしていた本を放り投げた。

「なんだ、まだお姫様にお預けさせてるのか?」

窓からの声にはっと顔を上げる。
「ガイ…」
「よぉ。いい加減意地張ってると、お姫様枯れちまうぜ?」
「枯れる?」
訝しげに顔をしかめると「ん?」とガイも首を傾げた。
「知らないのか?プランツはミルクと主人の愛で生きてるんだぜ」
「……臆面もなく言うな」
「事実だって。実際、お姫様はどんどん衰弱していってるらしいしな」
「何だと?」
アッシュの表情が苦々しげに顰められる。
確かに興味はないし、寧ろあんな人の形をした植物など気味が悪いくらいなのだが枯れてしまっては困る。母上が悲しむだろうから。
「初対面以来会ってないんだろ?とすると、そろそろヤバイと思うぜ?なんたって花に水をやらず放っておいてるのと同じだからな」
応接の間で引き合わされてから十日ほど。プランツは与えられた部屋から一歩も出てこないらしくおかげで悠々と屋敷を歩けたのだが。
ちっ、と舌打ちしてアッシュは立ち上がった。
「お、会いに行くのか?」
「『会いに行く』んじゃない。『見に行く』んだ。お前も来るか?」
「お、いいのか?いやあ一度会ってみたかったんだよ、お前そっくりのルーク姫に」
「あんな屑と俺が似ているなどと二度と言うんじゃねえ!!」
瞬間沸騰で怒鳴るアッシュにガイはハイハイと肩を竦めて窓際から室内へと降りた。







(多分続く)
***
ハーイやってきましたプランツルークで「屑」発言。これが言わせたかった。
あと「プランツ野郎」(笑)
ていうか逆行ネタはどうした自分。






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