いつわりの花園






ベルケンドのプラント研究施設で、アッシュたちは思わぬ人物と再会した。
「生きていたのか」
屋敷に訪れていた頃と何一つ代わらない穏やかな微笑みで彼は、ヴァン・グランツはアッシュたちを迎えた。傍らのリグレットが譜銃を構える。
「如何なさいますか」
「ルークの方は用済みだが、アッシュは『素体』として今一度くらいは使えるやもしれん」
ヴァン以外の各々が武器に手を掛けたその時、置くに続く扉が開いてこれまた思わぬ人物が現れた。ディストだ。
「総長、例の資料の…あー!!何やってんですかリグレット!!私の最高傑作に銃口を向けるなど許しませんよ!!」
ああ、空気の読めないやつが来た…。
ジェイドの溜息に被さるようにくつくつとした笑いが響く。
「そういえばお前はアクゼリュスの件が終わったらルークを引き渡せと言っていたな」
「返せ、と言ったんです!ルークは元々あなた方にお貸ししただけです!誰もくれてやるとは言ってません!!」
「まあ良かろう。目当てのルークはそこにいる。好きにするが良い」
「勝手に話を進めるな!」
今にも譜術の一発や二発ぶっ放しそうなアッシュにヴァンは肩を竦めた。
「ともあれ、今は『素体』の事は最優先ではない。リグレット」
「は、閣下」
「ヴァン!!」
アッシュの声を無視し、ヴァンは踵を返して扉へと向かう。
リグレットもアッシュたちを警戒しながらもそれに続いて出て行った。
「さて、ルークを返してもらいますよ」
「誰が渡すか!ルークは俺のものだ!」
「私のものです!」
「俺だ!」
「私です!」
「その辺にしておきなさい」
にこやかな微笑を浮かべた男は、しかし手にした槍をアッシュに(こっちの方が近かった為らしい)向けていた。
「アッシュ、どう足掻いた所で貴方に勝ち目はありませんよ」
「何だと?!」
見なさい、とジェイドの指がルークを示す。
ルークの視線は先ほどからずっとディストに向けられていて、ちらとも逸らされる事はない。
「ディストはルークの製造者です。ルークは彼に従う。これは彼女たちの本能です。『成熟』したプランツならともかく、彼女たちにとって製造者は別格なのですよ」
「ハーッハッハッハ!そう!私はルークの生みの親!ルークは私の元へ帰ってきます。そうですね、ルーク」
ふ、と前に歩み出たルークの腕をアッシュが咄嗟に掴む。
「ルーク!」
しかし振り返った少女は「ごめんな、アッシュ」と困ったように笑った。
「フィー、よんでる。いくな」
確かにその腕を捕らえていたはずなのに、するりとルークは抜け出してディストの元へと向かってしまう。
「暫く見ない内に随分育ちましたね。さあ、まずは一通りの検査をしますよ」
ヴァンが出て行った扉とはまた違う扉へと向かう男の後に続き、ルークもその後を追う。
「ルーク!!」
悲壮な叫びにルークの足が止まり、振り返る。
何か言いたげな眼差し。
しかしその唇が動くより早く扉の向こうに立ったディストが少女を呼び、すっととその視線が動いた。
その視線を受け取ったのはジェイドだった。ジェイドは一瞬嫌そうな色を浮かべたが、すっとその視線を逸らすことによってそれに応えた。
ルークがディストの隣に立つ。
扉が閉まる瞬間、もう一度ルークが振り返った。


かならず、かえるから。


そう、確かにその唇は囁いた。









暴れるアッシュをガイが抑えつけてプラント研究施設を出ると、「宿を取りましょう」とジェイドが提案した。
ガイが抑えていなかったら確実にたった今出てきたばかりの施設に襲撃を仕掛けかねないアッシュにいい加減苛立ったのか、にこやかにアニスを見下ろした。
「アニース」
「ハイハーイ大佐〜!」
すると待ってましたとばかりにアニスがトクナガを巨大化させる。
「アニスちゃんに、おっまかせ〜!」
ぼぐ。
そこからアッシュの記憶はない。




アッシュが目を覚ますと、そこは宿屋の一室だった。
「ルーク!」
「ふぁい?!」
飛び起きると同時に傍らから素っ頓狂な声が響き、ぎょっとする。
「…どういう事だ…?」
驚きに眼をまん丸にして固まっているルークがそこに居た。
「…あ…」
すると硬直の解けたルークがにこりと笑った。
「ただいま、アッシュ」
「ディストはどうした」
「フィー、ルークのからだはだいじょうぶだって。ルークの好きにしていいって」
「そうか…」
どうやら調べるだけ調べて帰したらしい。
他にも聞きたいことがあるはずなのに、今はもう、それすらどうだって良くなってくる。
「…心配した…」
「うん、ごめんな、アッシュ」
アッシュはルークを抱き寄せ、その腕の中に閉じ込めた。











***
メンバーのアッシュに対する態度が酷い気がするのは気のせいじゃありません。にこ。
ディストはヴァンがアクゼでルークを使い捨てにするつもりだったことは気付いてますが、ルークの能力を一番理解してるので万一のことがあってもルークだけは生き延びれると確信してました。
ジェイドの中でディストとアッシュはいい勝負です。なので近いほうに危害を加えます。(爆)
あ、最後のディストですが、別にジェイドにラブビーム発してるわけじゃないですよ。(笑)






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