いつわりの花園






丁度良い所に起きて来ましたね。…さあ、何の事です?貴方が勝手に倒れたんじゃないですか。己の不注意を人のせいにするなんて、いけませんよ。はっはっは。
そんな事はどうでも良いのですが、丁度今、プランツ・ドールとプラントの違いについてご説明させていただこうと思っていたのですよ。
ええ、まず、プランツとプラントの関係ですが、プラントはプランツの亜種、というよりは突然変異のようなものです。基本的に現在の方法では意図してプラントを造りだす事はできません。しかし…これを見てください。
ディストがルークに持たせたルークと貴方に関する資料です。
まあ、見たところで貴方にはさっぱりでしょうけどね。煩いですよ。
さて、こちらがルークの肉体を構成している音素の含有率を数値にしたものです。
ご覧のとおり、完全に第七音素のみで構成されています。
通常、プランツもプラントも第一音素から第六音素で構成されています。第七音素は彼女たちには合わない様で、初期の製造方法では第七音素を使うことも考えられていましたが、少女の精神に異常をきたし、例外なく凶暴化してしまいます。そのため、現在の製造方法では第七音素を使うことはありません。
しかしその僅かでも異常をきたすはずの第七音素。ルークはそれのみで構成されていますがルークに凶暴化の兆候は見られない。
ヴァンの「ローレライの寵児」という例えも強ち間違いではない。
いえ、寧ろローレライは第七音その集合体。
そしてルークもまた第七音素のみで構成されている。
ならばルークはローレライそのもの、またはその分身と言えるでしょう。
そしてアッシュ、こちらが貴方の肉体を構成している音素の含有率です。
ええ、そうです。ルークのような完全なものではありませんが、貴方もまた、殆どが第七音素で構成されているようです。
通常、人間も第一から第六までの音素で構成されます。第七譜術士の素養のあるものには多少の第七音素が含まれますが、それは他の音素を上回ることはまず有り得ませんし、況してや殆どが第七音素での構成も理論上有り得ない。

つまり貴方は人として生まれたプランツ、またはプラントと言っても良いでしょう。

しかしプランツとプラントは似て異なる生物です。
そうですね、男女の差、くらいでしょうか。
そしてルークはプラント。
では、貴方はどうでしょう。
これは私の考えでしかありませんが、貴方はプランツにより近いのではないでしょうか。
この資料だけで全てを図ることは出来ませんが、貴方を見ていると、プラントよりはプランツに近いように思われます。
ではそもそもプランツ・ドールとプラントの違いは何なのか。
ご存知の通り、プランツ・ドールは「ヒトの形をした植物」と言われていますが、プランツがどのようにして造られるか、ご存知ですか?
…おや、ガイ、よく知ってましたね。ええ、そうです。プランツは植物の種子から造られます。
プランツの造れる植物の種類は様々ですが、美しい花の咲く種が殆どです。
それをフォミクリーと呼ばれる特殊な音機関にかけると種子は凡そ鶏の卵程度の大きさにまでなります。フォミクリングが上手くいけば、それこそ鳥の雛が孵る様に種子の殻を破ってこれくらいの少女が出てきます。これを「発芽」と呼びます。…ええ、形は既に「少女」ですが、最初の大きさはこの程度です。
この頃のプランツはまだミルクも何も口にしません。通常の植物と同じように水を与え…ああ、飲ませる、という意味ではなく、掛ける、という意味で、ですよ。そしてレース越しの日光に当たって過ごします。この時期の直射日光は火傷しかねませんから。
個体差はありますが、数ヶ月で人間の赤子程度の大きさにまで育ちます。
その頃から一日に一回、ミルクを飲むようになります。
後は次第にミルクの回数を朝昼晩に増やし、成長が自然に止まるまで育てます。
ではプラントはどうかと言いますと、「少女」が種子から出てきた時点でプランツではなくプラントだと確認できます。見分け方はまあ貴方がたには関係の無い話です。
因みにプラントであっても育て方自体はプランツと変わりませんが危険なのでまず「発芽」した時点で処分されます。
とまあこれが主な製造過程となります。
さて、本題のプランツ・ドールとプラントの違いについてですが、外見はプランツもプラントも変わりません。
しかしプラントにはプランツには無い能力があります。そうです、右腕の音素砲。そして自己回復能力。
通常ならばその力を使うことはまずありません。使う必要が無いからです。では何故その使う必要の無いはずの力を持って生まれてくるのか。それは私にも分かりませんが、万一の自己防衛能力なのかもしれません。
そしてもう一つ。寧ろこちらの方が重要と言えるでしょう。
プランツは「依存型」、プラントは「独立型」という事です。
分かりやすく言うと、プランツは「主人」を選びます。この人間ならば自分を愛し、慈しみ、守ってくれると。
しかしプラントは違います。
プラントは互いに愛し慈しみ合い、支えあう「伴侶」を求めます。
アッシュ、貴方をプラントではなくプランツだと判断したのはそこです。
貴方は明らかにルークに依存している。いえ、男性型ということも踏まえるなら寧ろ共依存している。……ではアッシュ、その根拠は何です。そうやってただ違うと否定するのではなく、貴方が否定するその根拠を述べなさい。
貴方はルークを守らなければならないと思っている。ルークは自分のものだと、ルークを守れるのは自分しか居ないのだと。違いますか?……そこまで言うなら結構。ではルークに聞いて御覧なさい。
貴方に守ってもらいたがっているのか、その耳で確かめたらどうです。
ルークは貴方に特別懐いています。しかしそれはあくまで貴方がルークの「素体」だからです。貴方を見るルークの目は「主人」を見るものでも、まして「伴侶」を見るものでもない。ルークは貴方を親や兄のように慕っているだけです。
…何度も言わせないでください。先程も言いました。そう言うのでしたらルークに聞いてみたら如何です、と。
ルークには嘘をつくという考えがありません。プランツもプラントも美しくあろうとする本能があります。それは外見然り、内面然り。彼女たちの世界に偽りなど有り得ないのですからハッキリと答えてくれますよ。
…貴方がどう思おうとそれは貴方の勝手です。しかしそれをルークにまで押し付けるのは傲慢というものですよ。
さあ、聞くのですか。聞かないのですか。






「大佐きっつー」
「アッシュの態度は周りに迷惑ですから。いい加減目を覚ましていただかないと。彼も問答無用でスプラッシュを食らうよりはマシでしょう」
「しかしどうするんだ?アッシュのヤツ、ショックの余り部屋に閉じ籠っちまったぜ」
「とりあえず、朝まで待ちましょう。それで駄目ならタルタロスの船室に放り込んでグランコクマに向かいます」
「でも、良いのかしら…彼が自発的にルークから離れるなんて余程の事よ…」
「それを思うとルークも十分きっついよね〜。無自覚っていうのが更にタチが悪いよ〜。こーらルーク、アンタの事だってわかってんの〜?」
「??」
「いやー、正直というのは美徳ですよ」
「大佐が言うと胡散臭いでーす」












***
大佐語り終了〜。「素体」についてはまたいずれ。多分恐らく。
うちのジェイドって頭良い様に思えない。私が原因か。そうか。(納得)
結論から言って、アッシュはフられました。(笑)が、ルークはなんで今更アッシュがそんなことを聞くのかも、何で落ち込んでいるのかも、何で今夜はティアと一緒に寝るのかもよく分かってません。ルークはまだ複雑な事は分からないというか、他人の気持ちを考えるということができません。喜怒哀楽はわかるので悲しそうにしてれば慰めたりはしますが、何故悲しんでいるのか、という考えには到りません。
元々考えていた話と結構違ってきてる今日この頃。気持ちばかり逸ったせいで話を色々変えてしまった模様。まあこれはこれで…。説明がこっちの方が楽だし。(爆)






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