いつわりの花園






監視者の街、ユリアシティ。
平和条約の調印式はそこで行われていた。
両国の王が書類にサインをし、それをもって平和条約の締結となる。
筈だった。

「ガイ!何をするのです!?」

ガイが剣を抜き、その刀身をインゴベルトの首筋に押し当てたのだ。
アッシュやナタリアが彼の名を叫んで席を立つ。
ピンと空気が張り詰める中、ルークは一人我関せずと言わんばかりに椅子の上で足をぶらぶらとさせていた。
「剣を向けるならこっちの方かもしれないぞ。ガイラルディア・ガラン」
しかしマルクト皇帝が口を開くと彼女はぴたりと足を止め、そちらへと視線を向けた。
「ホドではプラントの研究が行われていた。そうだな、ジェイド」
「ガイたちには以前述べましたが、プラントはプランツの亜種であり、偶然の産物です。しかし当時のホドではそれを意図的に造り出す技術の研究をしていた」
「それと同時に、もう一つプロジェクトがあった」
「ええ。人にプラントの持つ強大な力を植えつける研究です」
「プラントの力を、植えつける…?」
「プラントは管理が難しく、ストレスで簡単に枯れてしまいます。当然、音素砲を撃たせるなんてことは無理です。しかしその力は惜しい。ならばプラントの能力を兵士に植え付ければ良い。プラントの音素情報を人に注入することによってその力を手に入れようとしたのです」
「そんな事が可能なのか…?」
ガイが呆然と呟く。誰もが同じ思いだったに違いない。
「実際、理論上は可能とされていました。しかし戦争が始まるということで、ホドで行われていた譜術実験は全て引き上げました。しかしプラントに関しては時間がなかった」
「だからと置き去りにしてみすみすキムラスカ側に技術を奪われることも良しとしない。だから前皇帝…俺の父は、最終的な実験の指示を出した。時期尚早だったが成功すると信じていたのか、それとも焦っていたのか…」
「当時ホドには一体のプラントが収容されていました。彼女と被験者を装置で繋ぎ、被験者にプラントの音素情報を注入する所までは上手くいっていたようです。しかし注入された音素が被験者の体内で拒絶反応を起こし暴走。それに共鳴してプラント自身も暴走し、ホド島全土を巻き込んで大爆発を起こしました」
「それで……ホドは消滅したのか……」
無意識に視線がルークへと向かう。しかし彼女はその視線に気付いていないのか、ただ一点だけをじっと見つめていた。
「父はこれをキムラスカの仕業として、国内の反戦論をもみ消した」
それではアクゼリュスの時と同じではないか。
アッシュが吐き捨てるように言う。
「酷い…被験者の人もプラントの子もかわいそう…」
「そうですね。被験者は当時十一歳の子供だったと記録に残っています。ガイ、あなたも顔を合わせているかもしれません」
「俺が?」
「ガルディオス伯爵家に仕える騎士の息子だったそうですよ。確か…フェンデ家でしたか」
がたん、とティアが立ち上がる。
「フェンデ!まさか…ヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ?!」
「ヴァンデスデルカ…?まさか…」
アッシュの問いかけにガイが頷く。
「そうだ。ヴァン・グランツ。ヤツの本名がヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ」
その場に居たもの全てが息を呑んだだろう。
そうか、とジェイドが呟く。
「だから彼はルークの音素砲を強引に使えたのか…」
「どういうことですか?大佐」
「恐らくヴァンの体内には今も注入されたプラントの音素情報が残っていて、ヴァンはそれを扱う術を身につけた。プラント同士が共鳴する性質を利用してルークの右腕を暴走させたのでしょう」
「ガイ」
それまで沈黙を保ってきたイオンがガイを見た。
「剣を収めてはいかがですか?この調子では、ここにいる殆どの人間を殺さなくては、貴方の復讐は終わらない」
その静かな声音に、ガイは無言で剣を鞘に収める。
「…とうに復讐する気は、失せてたんだがね…」
その呟きは、酷く疲れているように思えた。







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すっかり書き忘れてた、ヴァンがルークの音素砲を扱えた理由。
ちなみにホドを滅ぼしたプラントはヴァンと仲良しだったとかそんな設定があるのですが…どうでもいいですか。そうですね。(爆)






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