いつわりの花園






ユリアシティで平和条約の調印式が執り行われた後、ルークはピオニーへと預けられた。(正確にはマルクトに、だが)
地殻停止に伴い、どんな妨害があるかわからない。しかも相手はあのヴァンだ。
さすがにアッシュとて背後を気にしながら動ける状態ではない。
ということでアッシュ曰く「心配だから」、ジェイド曰く「足手纏いだから」非戦闘員であるルークは置いていかれることとなった。
そして同じく非戦闘員であるイオンはしかしアッシュたちに同行している。
ルークと比べ、イオンは様々な方面から狙われる可能性が格段に高い。
その為、多少の危険を冒してでも連れて行くべきだという事になった。といっても彼自身は始めから同行する気でいたようだが。
ともかく、ルークは外殻大地へと戻るマルクト御一行と一緒にグランコクマへと向かったのだった。

そして現在。

「ん?ルーク、お前良い匂いしてんな」
ルークは皇帝の私室でのんびりとホットミルクを啜っていた。
「う?」
きょとんと小首を傾げて皇帝を見上げると、彼はルークの前に膝をつき、遠慮なくその細い首筋に顔を埋めて甘い香りを吸い込んだ。
「くすぐったい」
くすくすと笑いながらもその金の髪に頬を摺り寄せる。
「んー?百合っぽい匂いだな」
『大人』になったプランツは通常の植物に喩えるなら花が満開の時期だ。
その身体から立ち上る芳香は柔らかく、甘く、しかし本物の百合ほどしつこくない強さでピオニーの嗅覚を擽った。
普段ならば今のピオニーほどに近づかなければ気付かない程度のそれも、今のルークのそれは部屋を緩やかに満たすほどだった。
そして二人の足元には皇帝の愛するブウサギたちが集まり、とろんとした眼差しで寝転がっている。
それらが何を意味するのか、ピオニーは勿論、ルーク自身知らないし気付いてもいない。
「アッシュたち大丈夫かなあ」
「アイツらなら大丈夫だろ。もう何日もしないうちにぴんぴんして帰って来るさ」
するとコンコン、と扉をノックされ、メイドの声が会議の時間が迫っていることを告げた。
「お、もうそんな時間か」
ピオニーは立ち上がり様にルークの目尻に軽く唇を落とし、一つ伸びをした。
「じゃあ、イイコで待ってろよ」
「うん、へぃ…」
か、と続くはずだった唇が固まり、ルークの表情が強張った。
「どうした」
しかしピオニーの声は届かない。
ふ、とルークの瞳から光が消える。
「ルーク!」
咄嗟にルークへと手を伸ばした途端、その手が何か見えないものに遮られた。
キィィ…と金属の擦れあう様な音が微かに響き、ルークの身体を幽かなエメラルドの光が縁取る。
「…ぁ、が声に耳を傾けよ…聞こえるか、私と同じ存在よ…」
虚ろな瞳を見開いたまま、ルークは淡々と告げた。



「私を解放してくれ…この、永遠回帰の牢獄から……」







***
ばかっぷ(以下略)
百合自体の花言葉は「威厳・純潔・無垢」深紅の百合の花言葉は「崇高な精神」だそうです。






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