いつわりの花園






『鍵』を…この牢獄の扉を開けられる唯一つの『鍵』を…



……聖なる焔の光……私の娘……




あの子を、私の元へ……








侵入者は六神将の一人、烈風のシンクだった。

「僕は……認め…ない……」

戦いの末、膝をついたのは彼だった。
膝をついた衝撃でその顔を覆っていた仮面が外れ、カァン、と澄んだ音を立てて転がった。
「お…お前…!」
露になったその素顔は、イオンと同じ。髪形こそ違えど、その色も、顔立ちも、体格も、翌々比べてみれば声さえも、全てがイオンと同じだった。
彼らはそういう二人をよく知っている。
そう、アッシュとルーク。もしアッシュとルークが同姓同士だったのなら今のシンクとイオンのように全くの鏡写しになっていただろう。
「やはり…貴方も導師イオンを『素体』としたプラントだったんですね…」
イオンが呆然と、しかし確信を得た声音で呟く。
「貴方も、って…どういうことだ?!」
「…僕は導師イオンを『素体』とした七番目の…最後のプラントですから」
「僕もお前もプラントとしては出来損ないだった…だけどお前の方が被験者に近い能力を持っていた。だから僕は先の五体と同じ屑として廃棄される筈だった」
「そんな…屑だなんて…」
「屑さ。プランツにもプラントにもなれず、人の形すらしていなかった始めの五体は生きながらザレッホ火山の火口へ投げ捨てられたんだ。そして僕もその運命を辿る筈だった。しかしヴァンの気まぐれで生きることを許された…ゴミなんだよ…代用品にすらならない『ミミックプランツ』なんて…」
「そんな事…!」
駆け寄ろうとしたイオンから逃れる様にシンクは後ずさった。しかしその冷たい憎悪に燃える視線は、一度たりともイオンから逸らされること無く睨みつけていた。
「僕が生きているのは、ヴァンが僕を利用するためだ」
かつん、とその踵がタルタロスの甲板の縁に当たる。
「結局…使い道のある奴だけが、お情けで息をしてるってことさ…」
そしてかれは仰け反り、そのまま後ろ向きに身を投げた。
「!!」
アッシュが駆け寄ったが、既に彼の姿は深淵へと続く七色の揺らめきの彼方へと呑み込まれてしまっていた。






「ルークも連れて来るべきだったかもしれませんね」
アルビオールで地殻から魔界へと無事帰還した彼らは、地殻でティアを解してその意思を告げてきたローレライについて話し合っていた。
ローレライは近くを静止させ、セフィロトの暴走を止めただけでは駄目だと言う。
地殻に囚われているローレライ自体を解放しなければ、根本的な解決にはならない、と。
そしてそのローレライを解放するには『鍵』が必要だ、とも。
『鍵』。ローレライはそれを「聖なる焔の光」とも「私の娘」とも言っていた。
聖なる焔の光。
古代イスパニア語でそれに該当する単語がある。
ルーク。
それこそが、古代イスパニア語で「聖なる焔の光」を示す言葉。
つまり、地殻に囚われているローレライの元にルークを連れて行かなければならない。
そういう事なのだろう。
そしてジェイドの言うとおり、確かに地殻にルークを連れて行っていたのなら、もしかしたら今頃ローレライの解放も済んでいたのかもしれない。
皮肉にも、一番戦力にならない彼女が一番のキーパーソンだったのだ。
しかし何にしたってあの場にルークが居なかったのはもうどうしようもないし、これからグランコクマへ向かってルークを伴い、再び地殻へ向かうなんて事も無理だ。
仕方ない、とでも言いたいのか、ジェイドは一つ溜息をついて話題を切り替えるように手を叩いた。
「ティアの体調も気になることですし、一先ずベルケンドへ向かいましょう」








***
ミミックプランツは「素体を元にして造られたプランツ(プラント)」を示します。
シンクの二つ名が「烈風」だったか「疾風」だったかで無駄に迷いました。(爆)






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