いつわりの花園






その日、グランコクマに住む人々は街に良い香りが漂っているのを感じた。
花の匂いだ、と誰かが言った。
そうなのかもしれない。
花屋が何か仕入れたのだろうか。
それともどこかで咲いているのだろうか。
ともあれ、それはとても良い香りだった。
心が弾むような、幸せな気持ちになれる、そんな香り。
ああ、きっと今日はなんて良き日なのだろう。
そう誰もが思った。


グランコクマに戻ってきたアッシュたちもその香りに気付いた。
いい香り、と声を上げる女性陣の傍らで、ジェイドは一人何かを考え込んでいたが、アッシュがふと
「ルークと同じ香りだ」
と告げた途端、はっとしたように顔を上げ、宮殿へ行くと言い出した。
宮殿の重苦しい扉を開けば、中から一層強い花の香りが漂ってくる。
しかし決して不快ではないそれに、またも喜ぶ女性陣を置き去りにせんばかりの勢いでジェイドは皇帝の執務室へと向かった。
「陛下!なんて事をしてくれたんです!」
かくして書類とにらめっこしていた皇帝は幼馴染の怒鳴り声に顔を上げることとなった。
「おう、帰ったか、ジェイド。で、どうだった」
「それについては後ほどゆっくりとご報告してさしあげます。それよりどういうことです」
「どう、とは?」
「ルークですよ。これだけの成熟香を蔓延させておいて分からないとでも思ってるんですか」
「ああ、ルークな。アイツを后に据えることにしたぞ」
さらっと吐かれたそれに固まったのはジェイドではなく、アッシュを始めとした仲間たちだった。
「貴方という人は…」
ジェイドは執務机に手をつき、身を乗り出す。
「ご自分が何をおっしゃっているのか、理解しておいでですか」
「勿論だ」
「陛下はプラントと交わることがどういう事か分かっていらっしゃらない!」
「分かってるさ。俺はもう二度と風邪をひくこともないし怪我で死ぬこともない。俺はきっと大勢の子供たちに囲まれて大往生だ」
「全て承知の上で、ルークと交わったのですか」
「いや、理解したのは目が覚めてからだ。自分の身体が人と弱冠変わった事を俺は知っていた。そして、ルークが俺の子を孕んだことも自然と知っていた。だから俺はルークを后に据える。そしてそのために今、こうやってプランツに関する法を革めているんじゃないか」
それより、やっぱプラントとプランツは分けて考えたほうがいいよな?と暢気に問う皇帝に、ジェイドはやがて諦めたような深い溜息をついた。
「…プランツとプラントは一緒に考えないほうが良いかと」
「だよな、よし、じゃあそうすっか」
鼻歌を歌いながら上機嫌に書類を分ける皇帝に、ジェイドは本日二度目の溜息を吐いた。
ちなみにアッシュたちは未だ固まったままである。







***
なんか久しぶりなので感じがつかめない。(爆)
陛下は多分首刎ねられたりすれば死ぬと思います。






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