いつわりの花園






アブソーブゲート、その最奥に彼は居た。

「よくぞここまで来た…アッシュ…ローレライの『素体』よ…そしてルーク…」

しかし構えるアッシュたちの前にルークが身を晒す。
「ルーク!」
お前は下がっていろ、というアッシュの声にルークは首を横に振った。
「ヴァン師匠」
アッシュの口調をそのままトレースしているルークはヴァンの事を「師匠」と呼んだ。
「どうして、世界を壊すんですか?」
するとヴァンは何故か穏やかな顔でルークに告げた。
二千年にも及ぶユリアの預言による歪み。
それは人の尊厳を奪うものであり、正さなければならない。
しかし預言中毒と成り果ててしまった人類を正すには劇薬が必要だと。
「でも師匠、人間が全部死んでしまったら、意味がないと思う」
「いいや、ルーク。ユリアの預言に支配された人類が滅び、人類以外の命が残る。生命とは本来進化する生物だ。ユリアの預言という楔が引き抜かれたとき、生命は新たな進化を遂げるだろう」
「そして再び人類が生まれ、今度こそ預言に支配されない世界が生まれる、とそういうことですか…全く、大した妄想力だ」
ジェイドの皮肉というより、心底呆れた声音のそれにヴァンは嗤う。
「フ…妄想、それも良かろう。どうあっても私を止めるというのなら、致し方あるまい」
ヴァンも剣を抜き、静かに構える。
しかしルークはただ無防備に立っていた。
「ルーク!」
そんなルークの腕を引き、アッシュが後ろへと下がらせる。背後にいたガイがルークを受け止め、ここで大人しくしているんだ、と更に下がらせた。
ルークは為すがままにされ、ただ茫洋とヴァンを見ていた。

「愚か者め。この星はユリアの預言の支配下にある。預言から解放された新しい世界を創らねば、この世界は終焉を迎えてしまうのだ」
ヴァンはそう罵りながら剣を無造作に振る。しかしその無造作に振られたかと思えた剣からは光の刃が迸り、アッシュたちは散開してそれを避けた。
「たとえそうだとしても!」
斬りかかりながらガイが叫ぶ。
「お前のやっていることは無茶苦茶だ、ヴァン!」
「そうです。預言は、無数の選択肢の一つに過ぎませんわ!」
ナタリアが矢を放ち、叫ぶと同時にその背後で譜術が発動した。
ジェイドの足元の譜陣から無数の光立ち上り、ヴァンへと降り注ぐ。
「しまったっ……」
全てを防ぎきれなかったヴァンの腕や足に光の矢が突き刺さる。
その隙を狙って放たれたガイの剣を弾き、しかし続いたアッシュの剣を受けきれずにその切っ先が脇腹を掠める。
「小賢しい!」
しかし振り下ろされる剣の重さにアッシュは膝を付きそうになる。
「滅せよ!」
ヴァンは床に剣を突き立て叫んだ。
「星皇、蒼破陣!」
突き立てられた剣を中心として譜陣が広がり、衝撃がアッシュたちを襲った。
衝撃に吹き飛ばされ、倒れる仲間たちの声にルークがびくりとする。
「預言に支配された人類は滅ぶしかないのだ…新たな星の歴史を生み出すためには!」
「兄さん!」
ティアが苦痛に呻きながらも半身を起こし、叫んだ。
「兄さん…本当にそうなの?もっと…もっと他の方法はないの!?」
「そうだ、人はそこまで愚かじゃねえ!人には滅亡を回避する意志の力があるんだよ!」
アッシュの言葉に、ヴァンは剣を床から引き抜きながら嗤った。
「ふ…『素体』が…小賢しい」
「っ…ヴァン!!」
アッシュが叫んでヴァン目掛けて駆け込んでいく。
しかし振り下ろした剣は防がれ、二撃、三撃と続けても防がれてしまう。
どちらも退くこと無くそれは続く。
「っく…アッシュ!」
剣を支えに立ち上がったガイ。禁譜を唱えるジェイド。
回復の譜術を唱えるティアとナタリア。

その中を、するりとすり抜けていく細い肢体があった。

「ルーク!」
ガイが手を伸ばしてその腕を捕らた。筈だった。
しかしその手は幻を掴むようにすり抜け、ガイは呆然とその後姿を見送った。
その後姿は、淡い光に縁取られていた。

「消えるがいい!」
アッシュの剣が弾かれ、ヴァンが振りかぶる。
これまでかと、しかし目を逸らしてなるものかとヴァンを見上げたその先に、ふわりと
光が割って入った。
揺れる焔色。
「ル…!」
アッシュがそれを認識した瞬間、振り下ろされたヴァンの剣がルークの首筋に触れる寸前で止められた。
ヴァンが驚愕の目でルークを見下ろしている。
アッシュからは見えなかった。
しかしガイたちは見た。
ルークの両の手が、ヴァンの胸の中に潜り込んでいることを。
からん、とヴァンの手から剣が落ちる。
するりと抜かれたルークの両手には、淡い光を放つ光珠があった。
ぴしり、と何かがひび割れる音がする。
ルークが手にしている、ヴァンの中から現れた光珠が音を立ててひび割れ始めたのだ。
がくり、とヴァンが膝をつく。
その視線は驚愕に見開かれたまま、ルークの手の中の光珠に注がれている。

ぱあん、と澄んだ音を立ててそれは弾けた。

ルークが手を下ろす。弾けたそれはきらきらと光を放ち、やがて一人の少女の姿を模っていった。
長い黒髪の美しい、菫色の瞳をした少女だった。

「サテュラ…」

ヴァンが呆然と呟く。
彼女の纏う光と等しく朧ろげな少女はふわりと微笑み、もういいの、と囁いた。


もう、かなしまないで


「サテュラ、サテュラ…しかし私は、」


あのときに、かえりましょう…
わたしたちがひとつになれるはずだった、あのときに…


差し伸べられる少女の光の手。
ヴァンは逡巡し、しかしやがてその傷だらけの手を少女の手に重ねた。
ぽう、と繋がれた手が光を増し、そこからヴァンの全身を光が包み込んでいく。
ルークが振り返り、アッシュの傍らに膝を付いた。

もう、いいんだよ。

何が、とは思わなかった。
終わったのか、とただ、そう思った。
そして光に包まれる一人の少女と、嘗ては師と慕った男を見上げる。
彼らの身体は少しずつ音素が乖離していき、その無数の音素が立ち上っては消えていく。


ヴァン…


少女が囁く。
その腕に抱かれた男は目を閉じ、ただその身を少女に預けていた。


さあ…かえりましょう…


ふわり、と一層強く音素が立ち上り、そしてその後には何も遺らなかった。







***
書く事もなかったので一気に飛ばしました。
アリエッタ、リグレット、ラルゴは雪崩によって死亡したことになってます。
ヴァンはサテュラの『伴侶』でした。ヴァンはルークにサテュラを重ねてみていた所があったのでホントはルークのことが大切でした。
戦闘シーンは苦手なのでかなり端折りました。最近ゲーム本編自体やってないので技とか曖昧にしか覚えてない…。
あ、ミミック・プランツについてのジェイドの薀蓄ネタがあったなあそういえば。
まあ後で付け足します。覚えてたら。(爆)






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