いつわりの花園
光の消えた後、まず口を開いたのはアッシュだった。
「ヴァンは、どうなったんだ…」 返ってくる答えは恐らく知っている。 それでもアッシュは問う。 「ヴァン師匠は、還ったよ」 穏やかな声。 優しい眼をしたルーク。 「ほんとうは、ヴァン師匠もあの時に死んでるはずだった」 「あの時とは?」 ジェイドの問いかけに、ルークは少しだけ悲しそうな顔をして答えた。 「ホドが沈んだとき」 ヴァン師匠のお母さんも、お腹に居たティアも、ホントは死ぬはずだったんだよ。 でも、サテュラが助けてくれた。 ヴァン師匠と同化しかかっていたサテュラが、ヴァン師匠たちを助けた。 「サテュラ…」 ティアは慄く様に唇を振るわせた。 「知ってるわ…昔、兄さんに聞いたことがある…」 ティア、お前が今生きていられるのはサテュラのおかげなんだ。 「長い、黒髪の…菫色の瞳をした…とても、美しい少女だったと…」 サテュラは何処に居るの? そう幼い自分は聞いた。 兄は、ここにいるよ、と自分の胸に手を当てて微笑んでいた。 その微笑みがとても哀しそうで。 幼心に、サテュラは自分たちを守って死んでしまったのだと思った。 しかし兄はちゃんと答えていたのだ。 「ずっと…サテュラは兄さんの中に居たんだわ…!」 ティアが口元を手で覆う。しかし視線は兄と少女が消えた場所を凝視していた。 「うん…ずっとサテュラはヴァン師匠の中にいたんだ。でも凄く弱くてヴァン師匠に声までは届かなかった。だけどここは音素がたくさんあるから、だから俺、サテュラの声が少しだけ、聞こえたんだ」 プランツもプラントも彼女たちにとっては全てが姉妹である。 だから少女は妹に願った。 ちからをかして。 ここからだして。 ヴァンに、あわせて。 「サテュラがいたから、ヴァン師匠は今まで生きていられたんだ。本当は、実験のせいでヴァン師匠も死んでるはずだった。だけど、サテュラがずっと守ってた。…それしか、出来なかったから」 でも、やっと自由になれた。 ヴァンという名の檻から開放され、少女は最愛の者の手を取った。 そして少女という命の楔を抜かれた男もまた、少女の手を取った。 そして一人の少女と男は、十六年間止まったままだった時間から、漸く開放されたのだ。 すっとルークが立ち上がった。 「ルーク?」 アッシュの声に、ルークはにこっと笑った。 「俺も、解放してあげなきゃならない奴がいる」 「ローレライ、ですか」 存在するとは言われていた。しかし誰もその姿を見たことが無く。 だが、ルークはローレライは地核にいると告げた。 そして、そこからの解放を願っているのだと。 自分を、呼んでいるのだと。 「ルーク」 戦いによって削られた床の縁へと向かうその腕をアッシュが掴む。 しかしその手はやはりするりとすり抜けてしまう。ルークが消えかけているわけではない。透き通っているわけでもない。ただ、掴めないのだ。 まるで触れることを、邪魔をすることを許さないと何かが牽制するように。 そしてその床の縁、遥か地核へと繋がる奈落の淵に立ち、ルークはアッシュたちを振り返った。 「それじゃあ、ちょっと、行ってくる」 すぐ戻るから、とルークは笑った。 笑って、そのまま後ろに倒れていった。 「ルーーク!!」 微笑みを浮かべたまま、少女は地核へと落ちていった。 *** ここからが面倒。キムラスカどろどろ劇。ああいやだ。 書きたい事のメインじゃないのであっさり簡潔に纏めたい。(爆) |