いつわりの花園
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「しかし…」
寒々しいまでに広い空間に初老の男の声が戸惑いを以って響く。 「惑わされてはなりません、陛下」 それを窘めるように響く、それより幾分か若い男の声。 「妹も甥も、アレを大事にしておるのだ。今更、」 「陛下」 ぴしり、と男の声が遮る。 申し上げたはずです、と。 「アレは人ではありません。愛玩人形ですらないのです」 「……」 「『プラント・ルーク』は兵器なのです」 光の海の底でルークは声を聞いた。 哀しい声。 どこ? ルークは感覚を光の海全体に広げていく。 今のルークにとって、その声の主を探し出すのは簡単なことだった。 みつけた。 もう一つの声が言う。 ローレライ。 身体の奥で響く声。 捕らえるか。 ううん、俺が行くよ。 ふっと光の海の底からルークの姿が掻き消える。 次の瞬間、ルークは求める場所に居た。 光の海の中を漂う、緑の髪の少年。 自分と同じ、しかし完全な形を得られなかった同胞。 悲しみの波は、この少年から発せられていた。 既に意識も拡散し、その形すら失いかけている少年。 シンク。 声にせず呼びかければ、滲みかけていた少年の輪郭が揺れた。 しかし応えはない。 もう、彼に自己としての意識は残っていない。 ただ、深い悲しみだけが根を張り、留まっている。 大丈夫。 ルークはそっとその身体を抱きしめる。 しかし形を保っていられないその身体はぐずぐずと形を崩してルークの身体にまとわりついた。 もう、泣かなくていいんだ。 ぽう、とルークの身体が光りを纏い、それに導かれるように少年だったそれも淡く光りだす。 悲しみも、苦悩も、絶望も、全て忘れて。 音素と音素が絡み合い、混ざり合い、ルークと一つになっていく。 今度こそ、幸せになるために。 ルークは全てを抱きとめ、光の海を見上げる。 さあ、帰ろう。 ごめんな、ローレライ。 俺、一緒に行けないんだ。 待っている人たちが居る。 必要としてくれる人たちが居る。 だから俺は、還ることはできない。 あの人のところへ、帰るよ。 胸の内から声がする。 わかっていたと。 愛し子よ。 お前が彼の者を選ぶことは初めからわかっていた。 天にあっては比翼の鳥のように。 地にあっては連理の枝のように。 お前たちはそう生まれたのだ。 私の記憶を、未来を覆すがいい。 新たな世界を築きしもの。 さあ、帰りなさい。 お前の生きるべき大地へ。 うん、行こう、ローレライ。 あの、愛しい大地へ。 「それでは陛下、アレはベルケンドに収容することと致しましょう」 「致し方ない」 「全ては、キムラスカの繁栄のために」 ルークは何故こんな事になったのか、分からなかった。 地核でローレライを解放し、アッシュたちの元へ戻った。 そしてみんなでアルビオールまで戻った。 向かったのはベルケンドだった。 ローレライを解放したことによるルークへの負担を調べるため、だったのだが。 街に入るなり神託の盾の兵士に囲まれた。 曰く、ルークを捕らえるよう命令が下っていると。 当然、アッシュたちが食って掛かった。 しかし双方が言い合いをしているうちに見覚えのある男が護衛の兵を引き連れてやってきた。 大詠師モース。 彼は細い目を更に細めて笑った。 手間が省けたと。 そして高々と告げた。 「『プラント・ルーク』は今後、プラント研究施設が管理する」 何を馬鹿な事を。 しかしアッシュの反論は勝ち誇ったような笑みを浮かべたモースの言葉に遮られた。 「これはインゴベルト陛下の勅命である」 アッシュたちが耳を疑い、ジェイドがそうきましたか、と小さく呟くのが聞こえた。 ルークはきょとんとして双方を見ていた。 自分のことを話しているのだということは理解できたが、それ以上は理解できない。 彼らは何を話しているのだろう。 するとモースは懐から何やら手紙のようなものを取り出し、ルークたちに広げて見せた。 ルークの視力ではそれらははっきりと見えたが、辛うじて字が読める程度のルークにその文面は難しすぎた。 そして一番下に朱色の大きな印が押されている。 それはキムラスカの国璽だったが、やはりルークが知る由もない。 そしてルークはプラント研究所の一室に連れて来られた。 最初は身体検査だと思った。 以前のように、サフィールが自分を検査するために連れて来たのだと思った。 しかしサフィールの姿は見えない。 漸くルークは何かがおかしいのだとはっきりと気付いた。 フィーは?どうしていないんだ? 問いかけても誰も答えてくれない。 ただ黙々とルークを音機関に固定し、数値を調べていく。 いつもならサフィールが指揮を取り、ルークが話しかければ言葉を返してくれた。 しかしそのサフィールが居ない。 誰もルークの問いかけに答えてくれない。 胸の奥で蟠っていた不安が一気に膨れ上がっていく。 何なのだろう、これは。 サフィールなら逐一何の検査なのか教えてくれた。 けれどルークの意思を無視して取り付けられては外される音機関。 続けられる数々の検査。 不安は恐怖に変わり、ルークは咄嗟に起き上がろうとする。 しかし押さえつけられ、再び台に寝かされる。 手足が何かで固定される。動けない。 なに。なんで。 すると一人が声を上げた。 おい、このグラフ見てみろ。おかしいぞ。 音素値が異常に増えている。 エコーかけてみろ。 あっ…これを見てください! まさか、胚子か。 このプラント、妊娠してます。 まさか導師イオンのミミック・プランツとの? あれはほぼプランツと変わりないはずです。 しかしもう一体居ただろう、ヴァン謠将の…。 ですがアレが男性体として機能していたかどうかも…。 しかしそれならばこの音素値も納得がいく。 前例がありません、どうしますか。 一先ず上の判断を仰ぐのが先だが…恐らく生まれてくるのもプラントだろう。 無事に生まれれば、ですが。 どれほど強力な力を持っているのか…興味深い。 これまで出来なかった実験も出来ますね。 出来れば解剖してみたい所だが… そこで、ルークの意識は弾けた。 *** あー誰かかわりに書いて。(爆) こういうのは読むのは好きでも書くのは嫌いですし苦手です。逃げたい。 というか殆ど投げ出しててすみません。もうこの辺は流れが分かればそれで…げふん。 |