いつわりの花園





枯れかけている、というガイの言葉を思い出したのは、ルークの髪を洗っているときだった。
ぱさついた感じの髪は、初めは汚れているからだと思っていたのだが、触ってみると驚くほど乾き、少し引っ張ればぶちぶちと千切れそうなほどだった。
体も全体的に痩せ細り、肌も触ると砂漠育ちのそれのようにガサガサしており、手触りが悪い。
アッシュはそれこそ壊れ物を扱うように、しかし馴れない手つきでガイの示すとおりに髪を洗ってやる。
全てが終わった頃にはこれ以上に無いくらい疲れており、体を拭くのはガイに任せてアッシュは一息ついた。
メイドには指一本触れさせなかったというルークも、ガイは平気らしく(ガイ曰く、相性があるのだそうだ)大人しくされるがままになっているルークの髪にふと違和感を感じた。
アッシュの髪色を深紅とするなら、ルークの髪色は燃え盛る焔の色だった。
その髪が、先の方へ行くに連れて明るい色になっており、ますます焔を髣髴とさせる色合いになっている。
それはそれで綺麗だと思うのだが、やはりそうなってしまったのは自分の所為なのだと思うと心苦しい。
プランツには確か専用の肥料があったはずだ。それを与えれば髪も肌も柔らかさを取り戻すだろうか。
「肥料もいいけど、一番効くのはやっぱお前が相手してやることじゃないのか?」
ぼそぼその髪を嘆くガイに肥料を与えてみてはどうだろう、と告げるとそう応えが返ってきた。
言っただろう?プランツはミルクと主人の愛情で生きてるって。
そう気障ったらしく片目を閉じてみせる使用人兼親友の彼の言葉にアッシュは黙り込んだ。
「さて、お嬢様。お召し物はいかがなさいますか?…ってオイオイ?」
下着を着せ終わったガイが冗談めかして少女へと問いかけると、ルークはガイの腕を引っ張って脱衣所を出て行ってしまった。
「……」


なんだか、自分よりガイに懐いている気がするのは気のせいだろうか。


なんとなくむっとしながら脱衣所を出る。洗面所を抜けて部屋へと戻ると、ルークが先ほどと同じ下着姿のままパタパタとアッシュの元へやってきた。
そしてびらりと目の前に掲げられたのは、深緑色を基調とした、やはりレースやらリボンやらがビラビラとしたドレス。
どうやら着せろということらしい。
しかしアッシュにドレスの着せ方などわかるはずもなく。
「言っとくけど俺もわかんないからな」
そう苦笑するガイに、仕方なくアッシュはそのドレスを受け取った。
しかし繰り返すがアッシュにはドレスの着せ方などわかりはしない。
「…おい」
「はい、アッシュ様」
扉の脇に控えていたメイドが駆け寄ってくるとルークはさっとアッシュの後ろに隠れてしまう。
「こいつに着せてやれ」
「しかし…」
ドレスをメイドに渡し、アッシュはルークを見下ろした。
「俺はドレスの着せ方はわからん。だから今だけで良いから我慢しろ」
するとルークは小さな唇を尖らせて拗ねたような表情をしたが、それでもアッシュが折れないと分かると渋々とメイドの前にその姿を晒した。
「……」
メイドがドレスを着せている間もずっと拗ね顔のルークは、アッシュを視界に入れていないと不安とでも言うようにアッシュを見つめている。それに居心地の悪さを感じたアッシュだったが、視線を反らそうものなら恐らくまた暴れだしそうな気がして、しかしだからとずっと自分と同じその翡翠の瞳を見つめ返しているのも辛く、何となくメイドの手つきを見守ってしまう。
無意識にそれを覚えようとしている自分に、アッシュはまだ気づいていない。










(続くらしいよ)
***
今のところルークはアッシュより頭一個くらい低い感じです。






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