いつわりの花園





アッシュがルークの部屋を訪れて以来、ルークがその部屋に居ることは極端に減った。
一日の殆どをアッシュの部屋で過ごすからだ。
初めこそ始終一緒に居るのはどうかと思っていたアッシュも、ルークが声を持たないからか多少はしゃいでも苦にならず、アッシュが読書や勉強をしているときは一人遊びをするなり眠るなりと大人しくしているので、ルークが傍らに居るのは当たり前になってしまっていた。
そして現在ではアッシュの部屋の隣に新しく部屋が増設されつつある。
ルークの部屋をアッシュの部屋の隣に新たに作り直しているのだ。
今はまだアッシュの部屋には多少の騒音以外に影響は無いが、ある程度完成したら一時的にアッシュは現在のルークの部屋で過ごす予定となっている。アッシュの部屋も多少の改造を施すからである。
とはいっても新たなルークの部屋とアッシュの部屋を繋ぐ扉を設置するだけなので数日のことではあるが。
ともかく、それまではアッシュの部屋にもう一つベッドを持ち込み、ルークはそこで一日を過ごしていた。



「……」
読んでいた本から視線を上げると、先ほどまで人形遊びをしていたはずのルークがすぴょすぴょと小さくなって眠っていた。
アッシュは音を立てないように立ち上がると、ブウサギのぬいぐるみを抱きしめて眠る少女にそっとシーツをかけてやる。
真っ白なシーツの上に散った焔色の髪をそっと手にすると、驚くほどの滑らかさでアッシュの手のひらを滑り落ちていった。
半月前のあのぱさぱさの髪が嘘のように潤い、弾力と輝きを取り戻していた。
その肌も触れれば絹のような滑らかさと吸い付くような潤いと弾力に満ちている。
髪の色だけが何故だかどうやっても戻らなかったが、その髪色も美しいと思う。
だからだろうか、とアッシュは先ほどまで読んでいた本へと視線を向ける。
プランツの生態について書かれた書物だ。
プランツを生み出したバルフォアという博士が記したものだ。
それによれば、プランツは人間が思っているより遥かに高い知能と順応力を持ってはいるが、プランツ自身はそれを引き出す術を持たない。
しかし人間がそれを引き出してやれば如何様にも育つだろう、と。
アッシュはルークのこの髪色を気に入っていると口にしたことは無い。しかし人の機微に敏感な少女はそれを察していたのかもしれない。だから栄養状態がよくなった今でも髪の色だけは戻らないのかもしれなかった。
なんにせよ、こればかりは生みの親であるバルフォア博士や、プランツを育てることを生業にしている職人にしかわからないだろう。
否、もしかしたら彼らにもわからず、プランツ自身にしかそれはわからないのかもしれない。
それでも、とアッシュは何度もその髪が指の間を滑り落ちていく感触を楽しむ。


それでも、この髪色が自分のためなのかもしれないと思うと、酷く嬉しかった。










(どんどんメロメロに。続く。)
***
以前独り言で書いたとおり、プランツの発案者はジェイドですが、ジェイド自身はプランツが愛情によって育つように作ったつもりはありませんでした。普通の植物のように水と光合成のつもりだったのに、下手に知能が高かったせいか人の感情を読み取るシロモノができてしまい、結果、愛情を感じることができないと枯れてしまうことに気づいたんです。うさぎは寂しいと死んじゃうのよ?!年がばれるのでやめましょう。というか今の子達はこのネタ自体知っているのだろうか。
あとどうでもいい設定ですが、通常のプランツは外見だけが人間なので生殖器はありません。排泄のための器官のみで、ぶっちゃけ尿道しかないような状態なので指一本入りません。






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