いつわりの花園





ND2018年・レムデーカン・レム・23の日。


アッシュは目を覚ますとまず真っ先に己の左隣へ視線を向ける癖が付いていた。
アッシュの腕に顔を寄せ、静かな寝息を立てている少女。
「ルーク」
閉ざされた瞼にそっと落とすように呼びかけると、ぱちりとその瞼が持ち上がった。
翡翠の瞳がアッシュを見上げ、朝の挨拶をするように柔らかく細められる。
「ああ、おはよう」
ゆっくりと身を起こすと、それにつられる様にルークも体を起こして可愛らしい伸びをした。


六年前、ルークは突然育ち始めた。
ミルクと砂糖菓子以外の食物を与えると育つ可能性が高いという事は知識としてはあったが、しかしアッシュはルークにそれらの類を与えたことは無い。勿論、ガイにも無ければメイドたちがこっそり与えたということも無かった。
至急プランツの専門家を呼んだのだが、やはり原因不明。
食べ物以外でも、主人がそう望めば育つこともあるそうだが、生憎アッシュはそんな事を考えたことも無く。
枯れる予兆として多少の成長が現れることもあるとも言われ、うっかりその専門家の男を切り捨てそうになったのはさておき。
ならば、プランツ自身がそう望んだのではないか、と軽く生命の危険を感じた男はびくびくしながらそう答えた。
メンテナンスで成長を止めることもできるが、そうすると一度全てをリセットすることになる、と言われてアッシュは迷った。
メンテナンスをすれば成長は止まる。しかし今までの記憶は全て消えてしまう。
しかしメンテナンスをしなければ恐らくこのまま成長して行き、上手くいけば「大人」になるが、裏を返せばそれは上手く育たなければ枯れてしまうかもしれないという事で。
元々プランツは成長せず同じ姿であり続ける生き物で、彼女たちにとって「育つ」という行為は水に漬かった事の無い人間がいきなり海に飛び込むようなもので。
つまりはどうなるか分からない、と。
可能性ばかりがあれやこれやと提示され、判断に迷っているアッシュの背を押したのは彼の剣の師だった。
ヴァンはルークを育ててみるべきだとアッシュに告げた。
こんなにお前に懐いているのだから枯れるはずがない、だから育つ育たないを考えず、今まで通り接してあげなさい、と。
アッシュはこの剣の師を信頼していた。だからその師がそう言うのならそうなのかもしれない、と思えてきたのだ。
何より、アッシュはルークを失いたくなかった。
勿論、存在そのものを失うなんて問題外だが、記憶だけでも失うのは嫌だった。
だから成長に関しては特に何も手を講じなかった。
ただいつも通りドレスを着せてやり、ミルクを与え、構ってやった。(ちなみに寝ている間に何かあってもすぐ気づけるようにと、一緒に寝るようになったのもこの頃からだ)
今までと違うのは、少しずつではあるがそれでも確実に成長しているルークのドレスを仕立て直すことが増えたくらいで。
そのまま一年が過ぎ、二年が過ぎていった。
ルークは相変わらず育っていたが、それでも一年に数センチ程度で、やがて成長期を迎えたアッシュとあっという間に差が開いていった。
そして、ルークの成長はアッシュの成長期が落ち着いてくると同時にストップした。
結果、ルークの身長はアッシュの胸元までしかなく、双子のようだった二人は今では年の離れた兄妹にしか見えない。
結局育った理由は分からず終いで、アッシュの腰にぴたりと抱きついているルークを見たガイが冗談で「お前に一番抱きつきやすい身長になりたかったのかもな」と言い、何故かシンとしてしまって以来、理由を考えるのは止めた。


「それでいいのか?」


黒地に薄紅色の糸で細やかな刺繍のされているドレスを差し出してルークはこくりと頷いた。
アッシュが身支度を整えている間に自分の部屋から今日のドレスを引っ張り出してきたのだ。
それを手早く着せてやり、鏡台の前に座らせる。その髪は櫛を透さなくても良いのではないだろうかというほどさらりと櫛の間を滑りぬけていく。
髪色は相変わらず毛先へ向かうほど明るくなっており、先端に至っては金色をしている。しかしそれも痛んだ素振りは全く見せず、朝日を弾いてきらきらと光を放っていた。


『アッシュ様』


ノックの後、メイドの声が扉の向こうから響いた。
「入れ」
失礼します、とメイドが入室して頭を下げる。
「旦那様がお呼びです。応接室までおいでくださいませ。あと、ヴァン謠将が…」
「ヴァンが来てるのか?!」
アッシュの形の良い眉が顰められる。今日は稽古の日ではなかった筈だ。
「はい、旦那様と応接室でお待ちになっております」
「…わかった。すぐに行く」
失礼します、とメイドは来た時と同じように静かに出て行った。
「この前の稽古の時には何も言ってなかったが…」
何かあったのか?
思考を廻らせていると、不機嫌そうな表情で見上げてくるルークの視線に気づいて苦笑した。
「そう拗ねるな」
ぽんぽん、と軽くその焔色の髪を撫でてやってもルークの視線が床に落ちただけで不機嫌そうな表情に変わりは無い。寧ろますます拗ねた感すらある。
ルークはヴァンを嫌っていた。
何故だかは知らないが、ヴァンの前ではアッシュの背に隠れ、警戒心も露にじっと伺っている。
ヴァン自身は相性が合わないようだと笑っていたが、ルークがこれだけ警戒するのはヴァンだけで、アッシュは相性の一言では済まされない何かがあるような気がしてならなかった。
かといってそれが何なのかは全く見当が付かないが。
「ここで待ってるか?」
答えは分かっていても一応尋ねてみると案の定、ぶんぶんと激しく首を左右に振った。
「わかった、わかったから止めろ。髪が乱れる」
行くぞ、と声をかけると渋々とルークは椅子から降り、アッシュの後について部屋を出ようとし、ふとその歩みを止めた。
「どうした?」
立ち止まった気配に振り返ると、ルークはじっと天井を見上げていた。
何か居るのだろうかと見上げてみるが、見慣れた天井が広がるだけだ。
もう一度どうしたのかと声をかけようとして、アッシュはぎょっとした。
ルークの全身を縁取るように微かな光が包んでいる。
「ルーク?!」
咄嗟にその腕を取ると、ルークは驚いたようにぱちりと大きく瞬きをした。
光は消えていた。
(見間違い?いや、そんなはずは…)
確かにルークの体は淡い光を発していた。そのはずなのだが。
「…いや、なんでもない」
きょとんと自分を見上げている一対の翡翠にアッシュはぎこちない応えを返した。
きっと、眼の錯覚か光の加減か何かだ。
そうだ、そうに違いない。
「…行くぞ。父上が待っている」
けれど、繋いだ手を放すことは出来そうになかった。









***
初っ端から砂吐きそうで・・・_| ̄|○
ていうか一気にゲーム本編まですっ飛ばしましたよこの女。
いやほら、コーラル城へ行かないと話が始まらないというか。ディストが出ないと話が始まりませんよ!!(結局私的なことかよ)
アビドレではどうやってディストを絡ませていこうかと隙間を探しているのですがなかなか見つからず・・・。いっそ強引な手を使ってしまおうか。いやいやそれではアスルクではなくサフィルクになってしまうジャアリマセンカ。ソレハソレデタイヘン魅力的デスガ!!(何故片言)
サフィルクは百合っぽくいきたいのですよ。好きにしろってか。よし来たまかせろ。
プランツネタでのルークとディストの関係はいつだったかここで垂れ流したとおりのモノなので出張りますよーウフフフフvv
あーあとは陛下も出張らせたい。ウパラ陛下。(ミドルで呼ぶな)
というか雪国×ルークがアスルクと並びそうな勢いで大好物ですジュルリ。
大穴でノアール×ルク子な百合で。ホラ来たよマイナー魂炸裂かよ。
あ、ローレライの声ですが、この時のはルークの方に届きました。しかも痛みも何もありません。ローレライさんはルークたん贔屓ですから・・・。(爆)
あ、台詞はうろ覚えーな方向で。






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