いつわりの花園
ヴァンがダアトへ帰国することになった。
応接間に呼ばれた理由、そしてここにヴァンが居る理由がこれでだった。 ヴァンはローレライ教団の武力の要である神託の盾の主席総長だ。 導師イオンを護衛し、その下で神託の盾を纏め上げていく立場の人間。 本来ならこうしてバチカルに滞在して俺の剣術指導をしていることの方が不思議なのだ。来るべき時が来たということだ。 それはともかく、その帰国理由の方が気になる。 導師イオンが行方不明らしい。 攫われたのか、それとも自分の意思か。 前者の可能性は低いだろう。導師は滅多に教会から出てこないと聞くし、何より四六時中導師守護役が最低一人は彼の傍に居るのだ。 何より導師にはダアト式譜術がある。詳しい術式は知らないが、その威力はかなりのものだと聞く。 では自分の意思なのかというと、これは俺にはその理由が分からない。 導師イオンは俺より年下らしいが、だからとフラフラ抜け出したとかそういう事ではないだろうし。 「アッシュ?どうかしたか」 「は、いえ…」 父上の訝しげな声に俺は慌てて思考を振り払ってヴァンを見た。 「なら、暫くはここへは来られないんだな?」 「ああ、私がキムラスカに戻るまで誰か代わりの者を寄越そう。取り敢えず、暫く手合わせが出来ない分、今日はとことん稽古に付き合おう」 それに頷いて返すと、ヴァンは父上に挨拶をして席を立った。そして俺には仕度が出来たら中庭に来るようにと告げて出て行った。 それに習うように俺も父上と母上に断りを入れて席を立つ。すると母上の隣で大人しく座っていた(と言っても始終不審そうな目をヴァンに向けていたが)ルークも椅子を降り、母上に向かってにこりと笑った。母上もそれに微笑を返してルークの髪を撫でる。 「二人とも、くれぐれも怪我のないようにね。アッシュ、ルークを守ってあげてね」 「はい、母上」 言われずとも今までそうしてきたし、これからもそうするつもりだ。 もう何度繰り返したか分からないやり取りと内心の呟き。回数を数えるのは三十回を越えた次点で止めた。 そしてルークは父上の傍らに立つと、ちょこりとスカートの裾を持ち上げて挨拶をした。嫌っているわけではないようだが、やはりルークも父上が苦手らしい。 父上が微かに頷いてルークの挨拶回りは終了する。 「では、失礼します」 ルークが傍らに辿り着くと同時に軽く会釈をし、応接間を出て行った。 ルークは俺のすることなら何にでも興味を示した。 動きを真似してみたり、俺自身気付いていなかった些細な癖を真似してみたり、読書をしている俺の隣で絵本を広げてみたり。 それはとても微笑ましい光景だったのだが、一つだけ勘弁してほしいと切実に思う事がある。 「…できたぞ」 一旦部屋に戻った俺とルークは動きやすい服装に着替えた。 俺は黒地に朱金の糸で刺繍があしらわれた拳闘着に。 ルークには白地を黄色で縁取ったクロークを。 …そう、俺とヴァンの稽古を見ていたルークが、真似をして一緒にやるようになったのだ。 とはいってもヴァン嫌いは相変わらずなので相手をするのは専ら俺かガイなのだが。 ルークの場合、稽古と言っても所詮は真似事遊びなのでルーク専用の短めの木刀を振り回すだけの、ちょっとしたちゃんばら遊びだ。 しかし、ルーク自身は俺と同じように稽古着を着て木刀を振り回して(俺の技を真似しているつもりなのだろう)きゃあきゃあと(声は出ないが)楽しく且つ満足げに遊んでいるだけなのだが、こっちはルークがすっ転んで怪我でもしないか、誤って木刀がルークの体に傷をつけたりしないかヒヤヒヤしている。 何より、母上に見つかったら大変だ。卒倒するかもしれない。 「いいか、俺とヴァンが稽古している間は絶対にガイの傍を離れるなよ」 中庭に向かいながら傍らを歩くルークに告げると(この台詞ももう何度口にしたことか)、「わかってるって」と言わんばかりに笑顔を浮かべる。これも毎度のことだ。 さすがに稽古中までルークの事を気にしてやる余裕は無い。ルークもその辺りは聞き分けているのか、俺とヴァンが打ち合っている間は大人しくガイの隣で座っている。 いっそあのちゃんばら遊び自体を止めてくれれば、と思うものの、一度としてルークがそれを受け入れたことは無かった。というより、止めにしないか、と告げるとルークは泣きそうな顔をするので結局こちらが折れてしまうのだ。(甘やかして何が悪い) 中庭には既にヴァンとガイが揃っており、何やら話していたが俺たちが来た事に気付くと「始めるぞ」と笑った。 *** もうアッスは開き直りました。全身でルークが大事です。過保護万歳。 うちのアッシュは本来のルークのようにヴァン師匠ヴァン師匠vvって感じじゃないので稽古つけてやるとか言われてもハイハイやりますかくらいのローテンション。寧ろここのアッシュはルークがヴァンを警戒してるので複雑な気持ちなのです。 あと、えーと、今更ですが私は基本的に「ゲームをクリアしていれば分かること」は詳しく書きません。なのでイオンのことも「導師イオンとはローレライ教団のうんぬんかんぬんで〜」とかそういうのは「どうしても話の都合上あったほうがいい」という場合以外はキレイサッパリ省きます。なので説明不足な感じを受けるかもしれません。が、私的にゲーム中に見られなかった時間帯の話を書くのが好きなく(重箱の隅を突くのが好きというか)、ゲームそのままの台詞とかあまり使いたくないのでこれもまた省きの対象になります。そりゃパロだけどさ、何を書いて誰をどう喋らすかは自分で考えたいじゃん。それが楽しいんじゃん。 とまあこれはあくまで私の考え方なので誰かを批判する気の全く無い意見だと理解していただければ幸いです。 ってこういうこと書くとまたお客様が遠ざかるって高槻さん。_| ̄|○ |