18:この気持ちは嘘じゃないよね?
(はじめの一歩/宮田×女一歩)




卒業式の帰り、海外へ行く事を告げるために幕之内家を訪ねたのだが、一歩の母親が申し訳なさそうに生憎の留守を告げた。(「ごめんなさいねあの子ったら何処で道草食ってるのかまだ帰ってこないのよあらもしかして貴方が宮田くん?ああやっぱりいつもいつも一歩がね(以下略)」)
会えなければそれはそれで仕方ない。
出発までそう日が無いのだ。
準備や手続きで忙しい中、彼女に会う為に時間を割くわけにも行かない。
木村辺りに伝えておけば自ずと彼女にも伝わるだろう。
しかし、やはり出来ることなら自分の口で、面と向かって伝えたかった。
そう思いながら家路に着けば、門扉の前にはこの雪の降る中、傘も差さず(そういう自分もだが)しゃがみ込んでいる少女が居た。
その少女は、宮田がつい今しがた訪ねてきた家の一人娘であり、そして宮田が会いたかった幕之内一歩だった。
「あ…」
足音に気付いたのか、一歩がはっと顔を上げた。いつからそこに居たのだろうか。彼女の鼻先と頬はほおずきのように赤く染まっていた。
一歩が握り合わせていた手を解き、慌てて立ち上がる。
「あっあのっ、おかえりなさいっ、あっ、み、宮田くんも今日が卒業式だったんだよね?おめでとう!」
捲くし立てるように言う一歩の黒髪には白い粉雪が無数に散っており、宮田はその髪をぺしっと叩いた。
「ふえっ?!」
「雪、積もってんぞ」
「えっ!そ、そんな長い時間座ってたつもりは…!」
慌ててパタパタと頭上の雪を払う手を、宮田は徐に取った。
「み、宮田くん…?」
その手の冷たさに表情を険しくすると、意図を掴めずに居る一歩が戸惑いの目で見上げてきた。
「…来い」
掴んだ手を引いて、宮田は強引に歩き出す。
「へ?え?」
すたすたと歩む宮田に引きずられるように一歩がその後をついて行くと、何と「宮田」の表札の掲げられた門扉を潜ってしまった。
「え?ええっ?!」
一歩はひたすらに驚愕の声を上げるしかない。
一歩にとってはそれほどの大事件だったのだから。
問答無用で家の中に連れ込まれ、連れ込んだ本人はさっさと靴を脱いで上がってしまう。
となれば一歩も上がらざるをえないわけで。
「お、お邪魔します…」
初めて入る、しかも入れる日が来るとは思っても見なかった玄関で一歩は身を竦め、視線をきょろきょろとさせながら靴を揃えて脱いだ。

わあ、宮田くんのお家に入っちゃった!!

そんな些細な、けれど一歩にとっては大いなる感動を覚えながら、ちょこりと突っ立っていた。(いつの間にか手が開放されていることに一歩は全く気付かなかった)
「上がってすぐ左の部屋、オレの部屋だから。先行っとけ」
言うだけ言って宮田はダイニングキッチンに消えてしまい、一歩は逡巡した後、結局の所逆らえるわけが無いので恐る恐る階段を上り、言われたとおりの部屋へと入った。
「わぁ…」
青系で纏められたその部屋は、ベッドと勉強机、そして天井まで届く大きな本棚があるだけの殺風景なものだった。
彼らしいといえば彼らしいその部屋に、一歩はくすりと笑みを洩らした。
ベッドの脇にちょこんと座り、ぐるりと室内を見渡す。

あ、宮田くんの匂いだ。

自然と顔がにやけてくる。
慌てて頬指先で揉んでいると、カップが二つ乗せられた小盆を片手に宮田が入ってきた。
「…何してんだ?」
「えっ、いや、その…マッサージ?」
「何で疑問系なんだよ。まあ良い、ほら」
カップの一つを差し出され、一歩は両手でそっと受け取った。
じんわりと暖かなそれは、甘い香りのするホットココアだった。
「あ、ありがとう…」
悴んでいた手がゆっくりと解れていく。
そっと一口啜ってみればふわりと甘さと暖かさが身体に染み渡っていった。
宮田が一歩の隣に座り、もう一つのカップを手に取った。
ちらりと宮田のカップを見ると、それはココアではなくカフェ・オレのようだった。
一歩の視線に気付いた宮田が視線を上げる。
「何だよ。ああ、もしかしてお前もカフェオレの方が良かったか?」
「ううん!ボク、余りコーヒーって得意じゃないし、ココア好きだし!ただ、ちょっと意外だったというか…」
「何がだよ」
「あの、ボク、宮田くんってストレート派というか、紅茶もコーヒーも何も入れないタイプかと思ってたから…」
「…まあ、確かに紅茶はストレートしか飲まねえけど、コーヒーはミルクを入れたほうが好きだ」
「そうなんだ」
えへへ、と嬉しそうに笑う一歩に「別に、」とそっぽを向いて宮田は続けた。
「ココアはオレんじゃないからな。父さんが好きで買ってあるだけで…」
「へえ!もっと意外かも」
「父さん、アレで甘党だから、結構プリンとか買ってきちゃ食ってるぜ。まあ、オレに気ィ使って隠れて食ってるつもりなんだろうけど、ゴミ箱にケーキ箱捨ててあればバレバレだよな」
「宮田くんは甘いもの好きじゃない?」
「まあ…嫌いじゃねえけど、好き好んで食べようとは思わないな。カロリー高えし」
そんな事より、と宮田が向き直り、一歩は思わず居住まいを正した。
「何の用だったんだよ」
「え?」
「だから、何でウチの前で待ってたんだって聞いてんだよ」
「あ!あのね、ボク、鴨川ジムで働かせてもらうことになったんだ!」
「鴨川で?お前が?」
バイトだけどね、と一歩は笑う。
「八木さんのお手伝いと言うか、雑用がメインなんだけど、空いた時間には練習もさせてくれるって」
それとね、と一歩は恥ずかしそうにそっと秘密を打ち明けるように告げた。
「ミットを、持てる様になりたいなって…」
「ミットを?トレーナーにでもなるつもりかよ」
「う、うん…少しずつウエイト管理のこととかも勉強して、会長や篠田さんのお手伝いも出来るようになれたらなあって…。勿論、釣り船の仕事もあるけど、その辺は融通してくれるって。…ボクは女だからプロにはなれないけれど、それでもジムに置いてくれた会長やみんなのためにも、役に立ちたいって思って……あっ、宮田くんはどう…ってボクシングだよね」
ああ、と返しながら元々こちらにも一歩に用があったことを思い出す。
「オレも、お前に話があったんだ」
「ボクに?」
「…海外へ行くことにした」
「…海外…?」
「東洋の強いヤツラと対戦して、自分を鍛えなおしてくる。…いつ帰ってくるかは決めてない。納得できるまで彼方此方を周ってくるさ」
「宮田くん…」
「…幕之内」
ふ、と宮田の顔が近づき、一歩は反射的に目を閉じた。
ふわり、と唇に暖かく、けれど少しかさついた感触。
それがゆっくりと離れ、一歩はそうっと目を開けた。
間近で絡み合う視線。
「そういや」
視線を合わせたまま、宮田が言った。
「お前の制服姿、初めて見た」
「あっ…と、学校帰りにそのまま来ちゃったから…その、に、似合わないよね…セーラーなんて…」
「別に。良いんじゃねえの」
そうしてもう一度口付けられ、しかしそれはいつものようにすぐに離れていかなかった。
「んっ…」
深く重ねられたそれに、いつもと違う、と身を硬くする一歩の肩に宮田の手が掛かる。
その手に押されるがままに一歩は宮田と口付けたまま後ろに倒れこんだ。
ジョンベラが首元でくしゃくしゃになっているのを感じる。
「んうっ…」
唇を割ってぬるりとしたものが入り込んでくる。
宮田の舌だ、と理解した途端頭の中が真っ白になった。
触れるだけのキスには何とか馴れて、多少の赤面だけで済んでいた。
けれど、こんなのは知らない。
こんな、口内を荒らされる様なキスは知らない。
しゅるりとスカーフが解かれる音がする。
ジィィッとセーラー服のファスナーが下ろされる音がする。
押さえつけられていた胸がふっと楽になる。
「ひゃっ…」
アンダーシャツの裾から冷たい指先が入り込み、思わず声を上げた。
腹部をゆるゆると撫でるように蠢くそれは次第に上を目指し、豊満なそれにたどり着く。
「……くのうち…」
耳元で囁く低い声。
震える身体。
自分が何をされているのか、何をされるのか、分からないほど子供でもなければ無知でもない。

怖い。

けれど、宮田が自分に触れている。
きっと自分は臆病なフリをしているだけなんだ。
臆病なフリをして、本当はとても貪欲なのだ。
怖いのだ。
けれど逃げようとは思わないのだ。
宮田が自分に触れている。
好きな人が自分を求めてくれている。
理由は何であれ。
もう何も考えない。
ただ沈んでいく。



あなたがわたしのすべて









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何かもう宮一女体ネタはアネモネシリーズでいいや。(投げやり)
所で、男女の恋愛間の典型的なすれ違いってあるじゃないですか。
男はやることやってれば付き合ってることになってるけど、女にとってはやることやってても「付き合ってください」「はい」がなければ付き合ってることにならない、という。(勿論誰しもがそういう価値観ではないという前提で言ってますヨ)
このシリーズはそれがテーマです。(爆)
宮田の「海外〜」の辺りは原作が手元に無い上に結構流し読みしてたので(宮一ファンとして失格)記憶にありません。超捏造。原作戻ってきたら手直しします、かも。(さらに失格)
ところでジョンベラって学生服でのセーラーの場合はカラーって言うんですか?ただの襟?私の中学時代もセーラーでしたが襟としか呼んでなかった気がします。
なので正式名称は海軍でのジョンベラ呼びしか知りません、私。
ちなみにウチのセーラーは冬は紺色でしたが、私的には冬も白の方が好きです。(知るか)

 

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