26:私が心から愛した生涯でたった一人の人だから。
(宮田×一歩/はじめの一歩)




二人でリビングへと戻ると、滋一と歩夢がピンクのゴムボールで遊んでいた。
「まま」
母親の姿に気付くと、歩夢は転がってきたボールを抱えるように持ってたどたどしく駆け寄ってくる。
「じーじ!」
「そう、じーじに遊んでもらったの。よかったねえ」
差し出されたボールを両手でそっと受け取り、一歩は笑った。
手の中が空になると、今度は右手を口元に持っていきながらじっと宮田を見上げた。
どう対処していいのか分からず、ただ見下ろしているだけの宮田。
すると歩夢が徐に左手を上げ、宮田を指差した。
「やーたく!」
そう言って母を見上げる歩夢。
言われた宮田はさっぱりだったが、一歩は頬を朱に染めて慌てて訂正していた。
「あゆちゃん、あのね、宮田くんで当たってるんだけど、そうじゃなくてね、ええと、その…あゆちゃんの、パパなんだよ」
「やーたく!」
「ううん、あゆちゃん、パパって呼んでごらん?」
「うー?ぱーぁ」
小首を傾げる歩夢に一歩が何度か言い聞かせる。
それが気恥ずかしくて、宮田は「いいから」とそれをやめさせようとする。
「でも…」
「ぱーぁ、ぱぁぱ」
「あっ」
「おっ」
一歩と滋一の顔に喜色が浮かぶ。
歩夢また宮田を指差して、
「ぱぁぱ」
と呼んだ。
「あゆちゃん、よく言えましたねえ、いいこいいこ」
「ぱぁぱ」
「一郎、突っ立ってないで抱っこしてやったらどうだ」
「え、あ、うん…」
ぎしりと音がしそうなほど強張った動作で膝をつき、しかし緊張から手を伸ばせず結果、歩夢を睨みつけてしまう。
すると歩夢はさっと手を下ろして母親の陰に隠れる。
ぷっと吹き出したのは一歩が先か、滋一が先か。
「まあ、お前の場合、急には無理だろう。少しずつ慣れていくんだな」
「あはっ、ご、ごめんなさい、つい…」
己の陰に隠れてしまった娘を撫でながら、一歩は滋一と共にくすくすと笑みをこぼした。





***
この後、何とか抱っこまで出来ても多分歩夢は泣きます。(笑)

 

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