28:会いたくて会いたくて会いたくて
(ホーク×一歩/はじめの一歩)

※「碇草の鎖」続編です。









全ては一本の国際電話から始まった。


「一歩、電話よ。ジョンソンさんって人から」
母親の言葉に一歩は思わず口に含んでいた緑茶をごきゅりと飲み下した。
「じょ、じょんそんさん…?」
横文字の名前を持つ知り合いなど片手で十分程度しか居らず、その中に「ジョンソン」なる名前は含まれていない。
「とっても日本語がお上手な方よ」
母と入れ替わりに廊下に出て電話の元へと向かう。
ジョンソンさん??誰だろう。
無条件で記憶を浚ってもそんな名前の人はおらず、一歩は首を傾げながら受話器を手に取った。
「もしもし、お電話変わりました。あ、ハイ…ええっ?!」
途端上がった叫び声に、寛子がひょいと居間から顔を出す。外にまで聞こえたのだろう、ワンポが一声吼えた。
「は、はあ、いえ、でも、ええ…」
しかし一歩に母の視線も愛犬の声も届くことは無く、彼は思わず電話台の前で正座をして「はあ」だの「いえ」だの繰り返していた。
十数分後、チン、と軽やかな音とは正反対の溜息をつきながら受話器を置いた一歩は居間に戻ると母親の向かいに正座した。
「あのね、母さん。ちょっと頼みがあるんだけど…」





「ええーー!!ブライアン・ホークが来るぅ?!ぅおっとっと…」
思わず抱えていた箱を取り落としそうになりながら叫ぶ板垣に、一歩は曖昧な面持ちで頬を掻いた。
「でも何でまた」
「話すと長くなるんだけど…」
客の荷物を降ろしながら一歩は一から説明する。
「うんとね、昨日の夜ホークさんのトレーナーだった人から電話があってね。鷹村さんに負けてからホークさん、ずっと荒れてたみたいなんだ。最近になって漸く大人しくなってきたらしいんだけど、この前の試合を聞いてからは今度は塞ぎ込んじゃったらしくて…」
「試合って、鷹村さんとイーグルのですか?」
「うん。どうも鷹村さんの名前を出すだけで怯えるらしくってね。そこに来て鷹村さんの二階級制覇の知らせが追い討ちになって、閉じ篭っちゃったらしくて」
「それが何で先輩と関係あるんですか」
「う、ん…試合の後ちょっと話したことがあるくらいなんだけど、どうも気に入られちゃったみたいで…」
「でもあの人引退したんでしょう?!」
「ホークさん自身がそう言って聞かないのと、精神的な物からリングに上がれないらしくて引退っていう事になってるんだけど、トレーナーの人たちはできれば再起してほしいって思ってるみたい」
まあ、確かにアレだけ強ければなあ…と板垣が海へと視線を向ける。
つられる様に一歩も穏やかな海原へと視線を向け、苦笑した。
「それで、お願いがあるんだけど…」
「わかってますよ、鷹村さんたちには言いません」
バレたらとんでもない事になりそうですし、と彼は肩を竦める。
「でもホントに大丈夫なんですか?あのホークですよ?」
すると一歩は大丈夫だよ、とへらりと笑って返した。
「不器用なだけで、本当はそんなに悪い人じゃないよ」
お気楽ご気楽な言葉に板垣は一層大げさに肩を竦める。
この人のお人よしは筋金入りだからなぁ。
「でもあのブライアン・ホークを預かるなんて…報酬でも貰わなきゃやってらんないですよ」
「うーん、そういう話もあったんだけどね、知り合いが泊まりに来るってだけでお金貰うなんて出来ないし…でも向こうの人がどうしてもって言うから、食費とか必要経費だけ貰って、あとは返すことにしたんだ」
「え!勿体無い!貰えるもんは貰っちゃうべきですよ!」
「んー、でもあんなに貰うわけには行かないし…」
「あんなに、って…一体どれだけ提示されたんですか?」
えっとね、とのほほんとした前置きに続いて提示された金額を板垣は脳内でドルから円に換算し…数秒後、絶叫した。







***
続く??
さ、三年ぶりに続き書いたよホーク×一歩…。ヒィー(((゚Д゚)))ガタガタ
いちおこれ、「碇草の鎖」の続編に当たります。
ホークが一歩の元へ押しかけるネタは碇草を書いたときからあったのですが、まさか三年以上経って書くことになるとは…。

 

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