39:据え膳食わぬは男の恥だ。
(宮田×一歩/はじめの一歩)




方向性は真逆でも、不器用であることに違いは無い宮田と一歩が偶に会った所ですることなど限られてくる。
通常の男女のようにデートスポットできゃあきゃあはしゃぐ事も無ければ、男友達のようにゲーセンにワイワイ騒ぐ事もない。
彼らにとって出かけるイコール買い物であり、それは時間をかけたウインドウショッピングではなく、最初から目的を持ち、最短ルートで済まされる。
精々、その後に食事に行くくらいで、映画ですらどうしても観たいものでも無い限り行った覚えは無かった。
そうなると必然的にどちらかの家で過ごすことが多くなってくる。
大抵は部屋で他愛もないことを話しながらボクシング雑誌を眺めたり、居間でボクシングの試合のビデオを見たり。
結局の所、彼らはプライベートでもボクシングから離れることなど到底無理な話だった。
そして今日も今日とて一歩は宮田の家に上がり込み、居間のソファに並んで座りビデオを見ていた。繰り返すようだがボクシングの試合のビデオである。決して綺麗なオネエサンが出てくる代物ではない。
インターバルでふと一歩の視線が画面から逸れている事に宮田は気付いた。
一歩は宮田の腿の上に置かれた彼の右手をじっと見ている。
「何だよ」
はっとした一歩が慌てて首を振った。
「う、ううんっ、何でもっ…」
「ふぅん?」
自分の手に何かついているのだろうか。見慣れたそれに視線を走らせても、別に怪我をしているわけでもゴミがついているわけでも無い。
「…あ、あのね…手に、触っても…いい、かな…?」
もうすぐインターバルが終わる。
そんな事を思いながら宮田は右手を無造作に一歩の方へと差し出した。
「ん」
「あ、ありがとう…」
おずおずとその手を両手で受け、一歩はそれ以上触るでもなくじっとその手を見ていた。
「さっきから何だよ」
「うん…この手があんな綺麗なカウンターを打つんだなあって…」
ゴングが鳴る。けれど二人の意識は完全に離れていた。
「……で?」
「う、うん…ボク、宮田くんの手…好き、だよ…」
はにかむ様に告げると、一歩の両手に乗せられていた宮田の手が持ち上がって一歩の頬に添えられる。
「…手だけか?」
「そっ、そんな事ないよ!宮田くんの顔もカッコイイし髪もサラサラでキレイだしカウンター以外のパンチだっ、んっ…」
一気に「宮田論」を捲くし立てようとした一歩の唇を己の唇で塞ぎ、それ以上の暴走を押し留める事に宮田は成功した。
そのままソファに押し倒し、シャツの裾から手を滑り込ませるとびくりと組み敷いた体が震える。
「みっ、宮田くん、試合…」
「後で巻き戻して観れば良いだろ」
「で、でも、お父さんが帰ってきたらっ…」
「父さんは今日は遅くなるってさ。…いいから黙れよ」
もう一度その唇に蓋をすると、やがておずおずとその手が抵抗ではなく宮田の肩に添えられた。
カウントが聞こえる。
ダウンした相手が立ち上がったのか、二人が知るのは当分後になりそうだった。





***
……………み、宮一でした。(限りなく視線を逸らして)
…………………っ!(逃亡)

 

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