40:大きな背中。大きな手。
(鴨川×一歩/はじめの一歩)




鷹村たちを締め上げた所(実質一番被害を受けたのは青木だが)、この薬は以前と同じ場所で購入してきたらしい。
新バージョンというそれは記憶の混乱などの副作用も少なくなんたらかんたら。
ともかく、一番の違いは効果が三日ほど続くということで、鴨川は更なる仕置きを彼らに施すこととなった。
そして不本意ながらも実行犯である一歩は、戻るまで何があるか分からないから自分が面倒を見る、と言って聞かなかった。
鴨川としてはそれに不安を覚えていた。
一歩に対してではない。己に対してだ。
拳の違和感や戦時中に負った傷跡が無いことから、恐らくこの身体は二十代前半の頃のもの。
あの頃も拳闘に明け暮れていたことに変わりは無かったが、しかしあのひまわりを愛する少女と出会ってからと確実に違ったことが一つあった。
肉欲。
あれ以来、そういったことに興味が無くなり、本当に拳闘、いや、ボクシング一筋で生きてきた。
しかし戦前はそれなりに欲はあったし女も抱いた。
そんな頃の自分の前に、愛する人間が日夜問わず己の世話をするという。
勿論、釣り船の仕事の間は抜けるのだが、それ以外はこちらの家で過ごすという。
拙い。非常に拙い。
会長、と後ろをついて回る姿が愛らしいと思う。
今日のご飯は何にしますか?と問いかけてくる仕草が可愛いと思う。
お風呂戴きました、と丁寧に頭を下げる仕草の楚々とした事。
ほんのりと色づいた頬や首筋の以下略。

何より、

「あの…二人きりのときだけ…また、源二さんって、呼んでも良いですか…?」

ああ、このはにかんだ笑顔がこんなに破壊力のあるものだったとは。
今となっては若さが憎い。

しかし何事も無く過ぎた三日目の夜。
明日には戻るという安心があったのか、テレビを見ていて不意に背中に感じた温もりに鴨川は硬直した。
「あっ、ご、ごめんなさい、つい…」
すっと温もりが離れる。
振り返ると、恥ずかしさに頬を染める一歩がいた。
「逞しい背中だなあって…つい…」
そうはにかむ姿が愛しくて、つい、
「え?」
その腕を引き寄せて、口付けていた。
「………」
腕の中でポカーンとしている一歩から視線を外し、すまん、と告げる。
「…どうして、謝るんですか…?」
ボクは、嬉しかったです、ともじもじと小さく呟くように告げた。
「いつもの会長も素敵ですけど、今の源二さんも逞しくて、大きくて、とても好きです。だから、謝らないでください」
そしてふと一歩の顔が近づいたかと思えば、唇に柔らかな感触が一瞬だけ触れ、すぐに離れた。
「これで、おあいこです」
えへへ、と恥ずかしそうに、それでいて幸せそうに笑う一歩を、鴨川は強く抱きしめた。
老人の身体の時はボクシングを通してでしか触れ合ったことのなかった肉体。
その元の老人へと戻るまであと数時間。
ついさっきまでそれをまだかまだかと待ち焦がれていたというのに。
彼と同じ若い肉体を手放すこと。
鴨川は初めてそれを惜しいと思った。






***
結局えろは入りませんでした。(爆)
多分この後なだれ込んだとしても一緒の布団で寝るくらいですよ、こいつらは。ヘタレとかそういうんじゃなく、純粋なんじゃないんですかねえ?一途と言うか。
肉体的には反応しないこともないけど、でも別にそういうのが必要というわけじゃない、みたいな。

 

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