42:たまには乙女チックでもいいじゃない。
(ホーク×一歩/はじめの一歩)




昔からずっとそうだった。
男は殴る。女は抱く。
そうしなければ、自分を保っていられなかった。
全身が火照って背筋がぞわぞわして目の前がちかちかしてくる。
理性など、すぐに擦り切れた。
血とアルコールと香水の臭い。
そこにしか自分が自分で居られる場所は無いのだと。
そう信じていた。

「ホークさん?」

柔らかい声が頭上から降ってくる。
『寝ちゃいまシたカ…?』
問いかけながらも、消え入りそうなほど小さな声で。
意識はしっかりしていたが、問いかけには答えず、目も閉じたままにしておいた。
そっとタオルケットか何かをかけられる。
「風邪引いちゃいますよ」
小さく呟かれたその日本語は、俄仕込みのホークにも辛うじて理解できた。
枕元に座り込んだその気配が微かに動き、ホークの髪をそっと撫でた。
わぁ、ふわふわしてる、と子供のような無邪気な囁きが耳を擽った。

心地よかった。

こんな風に誰かの前で無防備に目を閉じることなど、彼の前でしかしたことが無かった。彼の前でしか、出来ない。
女のように柔らかいでもない無骨な手が暖かい。
枕元で嬉しそうな笑いをかみ殺す気配が快い。
男を殴った時、女を抱いた時の快感。
あんな、ただ熱いだけの物とは比べ物にならないほどの充実感。
初めて味わう、濃度の高い安堵。
ああ、彼が居てくれて良かった。
意識が輪郭を失っていく。
自分という形が崩れ、何処かへと還っていく。
吸い込まれるような、落ちていくようなそれは、しかし恐怖は無く。
孵っていく、その先には


「おやすみなさい、ホークさん」


きっと彼が、待っていてくれるのだ。









***
碇草シリーズ続編。幕之内家に居候中のホークの日課。一歩の傍で昼寝。(爆)
ホークは結構寂しがりやで、メンタル面は弱いほうだと思うのですよ。肉体的な力で生きてきた分、内面的な部分が脆いと言うより未発達で幼い。
一歩に対しては様々な、いろんな種類の愛情…親愛や友愛、恋心、母親への憧憬、安息の具現。無数の愛情の形を抱いていると思います。

 

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