43:急に会いたくなっただけさ。
(宮田×一歩/はじめの一歩)




いつも走っている道が工事中だった。だから少しだけ懐かしさを感じる川沿いを走ってみた。
ただ、全く知らない道を走るより良いだろう。そう思っただけだ、と宮田は内心で呟く。
別に、アイツに会えるかもしれない、なんて、全く、これっぽっちも思っちゃいない。
思っちゃいないんだ。
冷たい空気を頬に感じながら川沿いを走る。
前方からやってくる見知った姿。固めの黒髪に黒目がちの大きな瞳。自分より小さな、それでも十分な筋肉を纏った身体。アイツだ。
ビンゴ。いや違う、偶々だ偶然だ。何が「ビンゴ」だ、と宮田は舌打ちする。
しかし彼は手元の横長の小さな紙切れを何とも喩え辛い表情で睨みつけていて、こちらには気付いていない。
そうだ、気付いていないんだからそのまますれ違ってしまえばいい。宮田は走る速度を微かに上げる。
別に彼に何の用があるというわけでもないのだから。
そうこうしている内に目の前まで辿り着いてしまう。彼はまだ気付かない。
あと数歩で…すれ違って終わりだ!

「何睨みつけてんだ」

しかし宮田の足は勝手に止まり、口が勝手に開き、手が勝手に彼の手から紙切れを奪った。
何してんだ俺。突っ込みすら空しい。
「みっ?!みみみ宮田君?!」
裏返る寸前の声を避けるように仰け反り、奪い取った紙切れを見る。
何をそんなに睨みつけてんだ。
「あっ!そ、それはっ…!」
「……お前、頭良かったんだな」
その小さな紙切れは期末テストの点数表だった。
しかも順位表も兼ねているらしく、点数の後ろに学年全体での順位が書かれている。
そして一番端には合計点数とその順位。
寝ても覚めてもボクシングに打ち込んでいた宮田は極々普通か、下手をすれば中の下くらいになる事もある程度の成績だった。
それを気にしたことは無かったが、こうして自称ライバルの成績が自分より遙かに良いのを見せられると(見せられるも何も勝手に奪い取ったのだが)癪に障る。
「そ、そんなコトないよっ!家の手伝いが忙しくて、予習なんて殆ど出来なかったし…」
あ、ムカツク。
卑屈なのか自慢してんのかどっちだ。ああ、卑屈の方か。確実に。
「で、学年五十位にランクインされてるクセに何をそんなに睨みつけてたんだよ」
紙切れを返しながら問えば、あのね、だのその、だのモジモジし始める。ウザイ。
「ボク、理数系って苦手で…最後のテストくらい、もう少し良い点数取りたかったなあ、なんて…」
確かに文系と比べて理数系の点数は下回っていたが、それでも六十点以上あるのだから何を心配しているのやら。
「進学するわけでもねえんだから、どうだっていいだろ」
「うん、そうなんだけど…こうしていざ高校生活最後のテストも終わっちゃうと、なんていうか、ちょっと寂しいなって」
宮田にとって使いもしない公式や、他人の心情を考える問題などに愛着は全く無い。
これで勉強から開放されてボクシングに専念できる、と清々した宮田とは正反対の反応に、そんなものだろうか、と思う。
「あっ!ボクのことより、宮田君!どうしたの?いつもこの道じゃないよね?」
「ああ…いつもの道が工事中だったからな」
「そっか…じゃあ工事が終わるまではずっとこっちなの?」
何かしらの期待に満ちた顔。何かムカツク。
「……今日だけだ」
「えっ!何で?!」
宮田君と一緒に走れると思ったのに!と続いた声に、宮田の中で何かが切れた。
咄嗟に止まっていた足で再び駆け出す。
「そりゃ残念だったな。じゃあな」
「あっ!宮田君!えと、またね宮田くーん!」
きっとヤツは腕を犬の尻尾のようにぶんぶんふって居るのだろう。
振り返らなくても分かる。
その緩みきった表情だって目に浮かぶ。
ムカツク。
この五分間は無かったことにしよう。よしそれが良い。
宮田は走りながら一人で頷いた。






***
・・・宮一?(訝しげ)
というか私に宮田視点で書くなんてこと、無理でした。もう別人。(爆)
ていうか何がしたかったのかわからなくなりました。単に一歩はそれなりに成績が良くて宮田君は結構悪い、というイメージがあったのでそれを話にしたかっただけというか。

 

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