47:バカを言っちゃぁいけない。 (宮田、宮田父、一歩/はじめの一歩) その日は客が来るから家に居ろ、との事だった。 父の客なら別に自分は関係ないだろう、と反論したが、どうやら自分に用があるらしい。 取材だろうか。しかし相手はジムではなく自宅に来るという。 相手を問いただしてもその時になれば分かるの一点張りで、教えてもらえたのは女性だということだけだった。 父の珍しく何処か曖昧さを感じさせる対応に、宮田は不自然さを感じていた。 会えば分かるというのであれば宮田も知っている相手なのだろう。 宮田自身が知っていて、尚且つ父が連れてくる女性? …まさか再婚するとか言うんじゃないだろうな。 宮田の思考回路は見事にすっぱずれていたのだが、疑心暗鬼になっている宮田はそれを正すことが出来ない。 宮田にとって母親の記憶などもう殆どない。どんな顔だったかも写真を見ないと思い出せないくらい朧げだ。 宮田の幼い頃に母と離婚した父は、男手一つで自分をここまで育ててくれた。 それに感謝こそすれ、母親不在を嘆いたことなどない。 しかし父自身はどうだったのだろうか。 伴侶が去り、子供をたった一人で育てるという忙しない日々。随分と侘しい思いをしてきたのではないだろうか。 そしてここに来て漸く安らげる相手を見つけたというのだろうか。 何をバカな、と失笑する反面、もし本当なら笑い事では済まされない。 そういった相手を見つけるのは父の自由だ。 しかしもし再婚したいというのであれば話は別だ。 思い切り自分にも降りかかってくる問題だ。 場合によっては父には悪いが断固として阻止しなければならない。 そして当日。 やってきたのは何と幕之内一歩だった。 確かに知ってる女性だが。 宮田は今現在目の前で起こっている出来事が把握しきれないでいた。 こんにちは、宮田さん、宮田くん、そんな風にはにかんで玄関先に立つ一歩。 そしてその彼女と抱えられた娘に向かってよく来てくれた、あゆちゃんもよくきたね、なんて親しげに話している父親。 何だこれは。 そしてさあ、一郎も突っ立っていないで座りなさい、と促されてリビングのローテーブルの前に座ればその向かいに座る一歩。(膝の上には歩夢とかいう娘) 父はと言えば湯飲みをそれぞれの前に置き、何故か一歩の隣に座った。 一歩が何か話があるということなのだろうか。 しかしその場合、普通は父は自分の隣に座るべきなんじゃないのか? まるで二人が自分に何かを打ち明けようとしているかのような。 そして甦る最悪の予想。 まさか。 実はな、お前に話があるんだ、と父から切り出される。 まさか。 何処か恥ずかしそうに俯く一歩。 まさか。 歩夢ちゃんの事は知ってるな、と続けられる。 …ん?二人のことじゃないのか? いや待て。待て。 今、脳裏に一層不吉な考えが過ぎらなかったか。 まさか、そいつが父さんと幕之内の、とか言うんじゃないだろうな?! アホもここに極まれるが、幸か不幸かそれに突っ込みを入れてくれる人は居ない。 「結論から言おう」 待て、心の準備というものが。 「歩夢ちゃんは…一郎、お前の子だ」 暫くお待ちください。 「…………………………は?」 言われた言葉を理解するのに宮田は多くの時間を必要とした。 我ながら間の抜けた声を上げたものだと宮田は思う。 しかし同時に仕方ないではないか、とも思う。 これは何かの冗談か、とも思う。性質の悪いジョークか。 しかしそれを否定するかのように父は大真面目に告げる。 身に覚えがないわけでもあるまい。 いや、確かに、いや、ちょっと待て。待て。待て。 思考回路はショート寸前な宮田が一歩を見れば、彼女は恥ずかしそうに俯き、膝の上の娘の手をとってもじもじさせている。 やるなら自分の手でやれ。いや、そうじゃなく。 「…だっ」 だっ? 二対の目が宮田を見る。 「だったら何で…!」 再会したときに言わなかった! その言葉はテーブルに両手をついて腰を浮かせた途端、喉の奥に飲み込まれてしまった。 脳裏に甦る、寂しげな声。 ――足手まといに、なりたくなかったから。足枷になって、重荷になるのが嫌だったから… 「…っ…」 浮かせた腰を再びどっかと下ろし、舌打ちする。 「……重荷かどうかはオレが決めることで、お前が勝手に決めつけてんじゃねえよ…!」 俯き、髪をぐしゃぐしゃにしながら搾り出すように言えば、やがて小さくごめんなさい、と応えがあった。 「どうしても、言えなくて…」 「一郎」 すると父の声が割って入った。 「積もる話もあるだろう。お前の部屋で話をしてきたらどうだ。幕之内くんも、あゆちゃんは私が見ているから」 二人で、これからどうするのか、話し合ってきなさい。 「…はい」 「…わかったよ、父さん」 頷くしか、なかった。 *** 貴公子は結構頭悪いと思うのは私だけですか。(爆) 成績とかもずば抜けて悪くはないけど下から数えたほうが早い、みたいな。 |