48:で、出来る訳無いでしょ?!
(はじめの一歩/ホーク×一歩)




一歩とホーク、そしてワンポの奇妙な組み合わせのロードワークは一週間を迎えていた。
板垣には申し訳ないのだが、ホークが幕之内の人間以外に接触したがらないので朝夜のロードの同行は遠慮してもらっている。
ホークが居ても一歩のやることに変わりは無く、ホークはホークで一緒に土手のアップダウンを走ったかと思えばストップウォッチ係をするだけで座っていることもあった。
それでも大した進歩だと一歩は思う。
少なくとも彼の行動範囲が、こういう言い方をするのはどうかと思うのだが、ワンポと同じだけには広がった。
彼は今、真っ白なパズルをしているのだ。
今、漸く縁取りが出来上がったのだろう。
中身を埋めていくように彼は走ったし、日本語も話すようになっていった。
彼には天性のものがあった。
それは運動神経だけではなく、言語能力にもその片鱗を見せていき、この様子ではヴォルグレベルまでたどり着くのに然程時間は要らないだろう。

ホークはよく笑うようになった。

下を向いていた視線も前を見るようになり、時には一歩をからかったりするまでになった。
それに怒って見せながらも笑う一歩の姿にホークがまた笑い、微笑みが巡っていく。
一歩はそれがとても嬉しかった。
交わす微笑み。
廻っていく暖かさ。
それをこの目の前の男と共有できることがこれ以上になく嬉しかった。

そろそろ帰りましょうか、と一歩が笑う。
夜釣りの船を見送ってからのロードワーク。
辺りは暗く、街路灯がほのかに辺りを照らし、月の光が川面を煌かせている。
短い応えと共にホークが歩み寄る。
ホークさん?
くっ付きそうなほど近づいてきたホークを小首を傾げて見上げると、ふと視界が暗くなった。
ホークの顔が降りてきた、と思った次の瞬間にはちゅ、と音を立てて口付けられていた。
「はっ?!」
甲高い声を上げて身を起こしたホークを呆然と見上げていると、彼は笑ってありがとう、と母国語で告げた。
何が、とか何で、とか聞ける余裕は一歩にはなく、ただ耳まで真っ赤にしてぱくぱくと酸欠の金魚の物真似を余儀なくされていた。
しかもホークはちょいちょい、と自分の唇の端を突いて返礼を要求する。
「むむむ無理です!は、恥ずかしくて出来ないですよぅ!」
思わずしゃがみこんで頭を抱えると、同じようにホークもしゃがみこんで一歩の顔を覗き込んだ。
本当に?
母国語でそうからかう様に笑うホークに、恥ずかしい反面、ちょっとだけむっとする。
それが表情に出ていたのだろう、彼はふっと笑って囁いた。
「please……baby?」
その低音に、一歩は耳どころか首筋まで真っ赤になり、うーとワンポのようにうなり声を上げ、やがて手を地面につけてそっと背伸びをするように彼の頬に口付けた。
唇ではなく、頬というのが彼の精一杯を示しているようで、ホークは可笑しそうに、それでいて嬉しそうに笑う。
「もう!ホークさんのばかっ」
男の笑い声が夜空に響いた。





***
ホークにぷりーづをいわせ隊。(何)
ということで書き逃げしますさようなら。(逃亡)

 

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