5:お前を置いていくわけ無いだろ。
(十文字、セナ/アイシールド21)




別に、一緒に帰る約束をしているわけじゃない。
口に出したわけじゃない。
だけど、人目につかない所でそっと手を繋いだり、抱き合ったり。
そんな関係になってから、ずっと続けられてきたこと。
それは、練習のある日も無い日も一緒に帰ること。
練習のあった日は、どちらかが着替え終わるまでなんとなく、待ってる。
何かしらの理由で練習が無かった時は、すれ違いざまに彼が待ち合わせ場所を囁く。
たったそれだけのことで、とてもとても暖かな気持ちになれた。
なのに。


「…あれ」
教室に戻ると、そこには誰も居なかった。
今日はテスト週間第一日目で、放課後の部活は全面的に禁止されていた。
正直な話、もうちょっと勉強を頑張らないと危ないかも、な人たちが結構いて、ヒル魔さんもいつもの手で校長を脅して部活を行うことはしなかった。
僕はちょうど日直で、職員室へ日誌を届けに行かなくてはならなくて。
教室を出る時、十文字君はトイレにでも行っているのか、姿が見えなかった。
けれど机の上に鞄はあったし、黒木君や戸叶君も居たから大丈夫だって思って教室を出た。
担任の机の上に日誌をおいて、僕は足早に教室に戻る。
待ち合わせ場所は特に何も言ってなかったから、教室で待っていてくれているかもしれないし。
階段を一段飛ばしで駆け上る。あと少し。
だけど。
「……なぁんだ」
がらんとした教室。
急いで損しちゃった。
僕の机の上にぽつんと置かれた僕の鞄。
僕の後ろの後ろ、そこが十文字君の席。鞄は見当たらない。
…そうだよ、別に約束してたわけじゃないし。
十文字君だって、たまには三人だけで帰りたい時だってあるだろうし。
僕と一緒に帰るようになるまではずっとそうだったんだろうし。
「急いで損しちゃった」
少しだけ唇を尖らせて拗ねてみる。誰も見てないし、これくらい良いよね。
…帰ろう。
鞄を持ち上げると、なんとなく、いつもより重い気がする。中身は同じなのに。
はあ、と一つ溜め息を吐いて教室を出る。

「セナ」

え?
十文字君、あれ?
「先…帰ったんじゃ、ないの?」
「黒木が鞄間違えて持ってったんだよ。ま、対したもん入ってねえけど、一応取り替えてきた」
ほら、と脇に挟んだ鞄を見せる。
ぺったんこの鞄。ホント、何も入ってなさそうな薄っぺらさ。
「お前、向こうの階段から来たろ。だからすれ違わなかったんだよ」
……。
「…なんだぁ…」
「『なんだ』って何だよ」
「先に帰っちゃったかと思った」
十文字君は「はあ?」って少しだけ片眉を跳ね上げた。
「お前を置いて行くわけねえだろ」
当たり前のようにそう言ってくれるのがとても嬉しくて、
「…うんっ」
僕は思わず、笑ってしまった。










+−+◇+−+
何コレ。(不審なものを見る目)
十セナ…のつもりなんですが…何コレ。
私、もしかして十セナに向いてない?読み専にまわれってこと?
何コレ。(三回目)
(2004/09/25/高槻桂)

戻る