50:これで全て終わりにしよう。
(はじめの一歩/宮田×女一歩)




「それ」が体内から引き抜かれた時、その感触に一歩は思わず身震いした。
途端、そこから熱い何かが溢れる感じがして、一歩は慌てて脚を閉じる。
覆いかぶさっていた影が起き上がると同時にゆっくりと身を起こせば、床で擦れた背中が痛んだ。
しかしそれを上回る下肢の痛みと熱。視線が上げられない。
「……」
お互い、無言だった。
「…っ…」
微かな衣擦れの音に、一歩はびくりとして視線を上げた。
宮田が乱れた髪を更に手でぐしゃぐしゃにしながら、ち、と忌々しげに舌打ちした。


「こんなつもりじゃなかった」


吐き捨てるように呟き、彼はスラックスの乱れを整えたかと思えばシャツも羽織らず部屋を出て行ってしまった。
一歩は暫く呆然としていたが、はっとして乱れた衣服を整え始めた。
右足首に引っかかった下着を穿き直し、しわくちゃのスカートを整えようと膝立ちすればまるで経血が流れ出るようなあの独特な感触がして下着を濡らし、一歩は真っ赤になって身体を震わせた。

こんなつもりじゃなかった、と宮田は言った。

一歩はしわくちゃのセーラーを叩いて皺を伸ばし(それでもしわくちゃに変わりは無かったが)袖を通した。
赤いスカーフをジョンベラに通し、リボンの形に整える。
今が冬でよかった。コートを着てしまえばしわくちゃのこの制服も目立たない。

忌々しげな舌打ちが耳から離れない。

コートを纏い、己の姿を見下ろす。
スカートもしわくちゃだったが、これくらいなら分からないだろう。

大丈夫、何でもない。
大丈夫、だいじょうぶ、だよ。

視界が次第にぼやけてくる。ゆらゆらと揺れる足元。
ぽたた、と涙が零れて爪先で弾けた。
下肢に力を入れていないと流れ出てくる吐き出されたそれ。
脳裏に焼きついているのは己を呼ぶ唇と、辛そうなに細められた切れ長の目。
硬い胸板。鍛えられた腹筋。己の脚を抱えあげる節ばって長い指。
ぎゅ、と目を閉じ、涙と一緒にそれを振り払う。

「…ごめんなさい…」

何に対してのものなのか、一歩自身分からないまま呟いた。
ただ申し訳なかった。宮田に対してなのか、自分自身に対してなのか。
それすらも分からないまま、ただ謝った。

一歩はそうっと部屋を出る。
余りにも神経を内外に尖らせながら階段を下りると、一階の奥から微かな水音が聞こえてきた。
ああ、シャワーの音だ。
その音が鳴り止まぬよう、祈りながら一歩は靴を履き、そうっと玄関の扉を開いた。
最小限に開いたそこからするりと抜け出し、水音の止まぬ家を一度だけ振り返る。
「……さようなら……」
音もなく、扉は閉ざされた。





***
もう何も言うまい。orz

 

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