7:本気でそう言っているのかと聞いている。
(阿含、雲水/アイシールド21)




久しぶりに寮に帰ってみた阿含を待っていたのは無人の部屋だった。
何だよ、雲水、いねえじゃん。
何処行ったんだ、あいつ。
ぶつぶつと文句を呟きながら椅子を引き寄せて腰掛ける。
携帯電話が鳴った。雲水専用の着信音ではない。
女からのメールかと、面倒臭そうに阿含は己の尻ポケットから軽快なメロディを奏でるそれを取り出す。
案の定、昨日引っ掛けた女からの誘いのメールで、今のところ断る理由の無い阿含はそれの了承のメールを打つ。
かちゃり、と控えめな音を立てて扉が開かれた。
「阿含」
何処かへ行っていたのだろう、雲水が阿含の姿を認め、思わずといった風に彼を呼んだ。
ちらりと雲水を見上げ、しかしすぐにまたメールを打つことを再開する。
少し、悪戯心が沸いたのだ。
雲水は何だかんだと言いながらも阿含が出て行くのを止めない。
行くな、の一言を言えないのだ。
その一言を、言わせてみたくなったのだ。
だからいつもとは違うことをやってみる。
いつも阿含のほうからくっついて行ってばかりだったから、今度は敢えて離れてみる。
押して駄目なら引いてみろ、というヤツだ。
「夕食はどうしたんだ。食べてきたのか?」
微かな戸惑いを滲ませた雲水の声。イイ感じだ。
「阿含」
それをきっかけに阿含は立ち上がる。メールを送信し終わった携帯電話を尻ポケットに押し込み、雲水の傍らを通り過ぎてドアへと向かった。わざと雲水とギリギリ触れ合わないようにすれ違う。
「阿含」
微かに咎めるような声音。あと一押し必要か。
「うぜぇ」
きっと雲水は傷付いた。
雲水を見ないまま、阿含は扉を閉じた。



それから数日、いつもと同じように女の元を渡り歩いた。
どんなイイ女と一緒に居ても、犯していても雲水の顔がちらつく。
雲水を抱きしめてキスして体中を撫で回して噛み付いてやりたい。
無理やり繋がって後ろだけでイかせてやりたい。
繋がった所から精液が溢れるほど注ぎ込んでやりたい。
ダメだ、完全に禁断症状が出てる。雲水に触れたい。
自分で仕掛けておいて自滅しそう。
…やめた。帰ろ。
隣で眠る女を置いてさっさと服を着て部屋を出る。
雲水はきっと寝ているだろう。
久しぶりに雲水の寝顔を眺めて、雲水のベッドに潜り込んでやろう。
目が覚めた雲水の反応を想像するだけで口元が綻ぶ。
二人の部屋までの道のりは、あっという間だった。
鍵の壊れている窓を潜り抜け、部屋へと向かう。
深夜なのだから当然何処もかしこも暗かったが、その足取りは慣れたものだ。
鍵を取り出して鍵穴へ押し込む。右へと回すとかちりと微かな手応え。
ガチャリ。
部屋の隅で、びくりと身を起こす気配。
雲水は起きていた。
床の上で胡坐をかき、何か考え込んでいたようだ。
寂しかったのか?
そう言おうとして雲水に先を越された。
「寮を出ることにした」
おかえり、と言うのと同じ口調でそう言われ、一瞬何を言われたのか理解できずに雲水を見下ろした。
「あ?」
しかしそれは聞き間違いなんかではなく、雲水はどこか嬉しそうに笑って告げた。
「お前はここに残ればいい。俺は自宅から通う」
その瞬間、阿含は自分がやりすぎたことに気付いた。
「本気でそう言ってんのか?」
問い返しながら阿含は内心で舌打ちをする。
少し、一人にさせすぎた。
もう少し早ければ、恐らく阿含の企みは完遂されただろう。
しかし機を逃してしまった。
会えない時間が弱さを呼び、間を置くという選択をとらせてしまった。
「お前だって、その方が良いだろう」
視線を伏せる雲水。駄目だ。俺がここにいるんだから俺を見ろ。
雲水、雲水、
「バカじゃねえ?」
胸倉を掴んで、押し倒して、目をまん丸にしてる雲水の体に圧し掛かって。
「あ、ごん?」
バカな雲水、不器用な雲水。
「簡単なコトじゃねーか」
寂しいと、一人にするなと見苦しく足掻いてみせろ。
俺に傍に居て欲しいんだって言ってみろ。
てめえの口で言ってみろ。
「阿含…ぁ、こら、止めないか、阿含っ…」
ほら、いつまでもそんなおキレイなトコにいねえで。
ここまで堕ちてこい。
お前と俺は、ふたりでひとつなんだから。
「ひと、つ…?」
そうだ。俺とお前はどう足掻いたってひとりにはなれない。
肉体が分かれている以上、ひとりにはなれっこない。
だけど俺たちは元々はひとつだった。
ひとつが分かれてふたりになった。
だから雲水、
「待、阿含、無理…ィ、あ、くっ…!」
お前には俺が必要なんだ。
俺がお前を求めるように。
ひとつだった過去と、今でもひとつだった頃に戻れるような錯覚。
それが俺とお前をひとりにさせやしない。
「雲水、なぁ、雲水のナカに出していい?お前の一番奥に出していい?」
「ぁっ、あ、はっ、あごん、阿含っ…」
俺とお前はひとりじゃない。ふたりだ。
ひとつだったふたりだ。
「…っ…!」
だから雲水、俺たちはただのふたりになることなんてできやしない。
況や、他人と他人になるなんて、無理な話だ。
なあ、雲水、そう思うだろ?
なあ、雲水、
「寂しかったって言えよ」











+−+◇+−+
わけわからん話になってしまった気がしてなりません。まあいいや。
なんとなくイメージが伝わってくれたらこれ幸い。
一応、お題6の続きというか阿含編というか、まあとにかくそんな感じ。(爆)
(2004/09/21/高槻桂)

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