予め失われし、燭

(前編)





カタン…
カーシュは微かな物音で目が覚めた。
まだ眠気で重い瞼を抉じ開けると、まだ日が昇って僅かな時間しか経っていないであろう事が分かる。
身を起こして辺りを窺うと、隣りのベッドではマルチェラが普段のキツさからは想像も出来ないような、年相応な幼い寝顔ですやすやと寝ていた。
だが、更に奥のベッドに寝ている筈の少年の姿は無い。
(……何処行ったんだ?)
トイレかと思いながらもカーシュはベッドサイドに掛けておいた上着を羽織ると、そっとベッドから降り立ちってセルジュのベッドへ足を運ぶ。
確かに寝ていた形跡の残るそのベッドに手を当てると、まだ、微かにその温もりを残していた。これならば、まだそれほど遠くへは行っていないだろう。
カーシュは身支度を整えると、そっと部屋を後にした。



廊下へ出ると、やはりトイレではなかったらしい。セルジュは玄関の扉を開け、朝靄の中へと進んでいく。
カーシュは一瞬声を掛けようかと思ったが、何と無く掛け辛い気がしてその後を付けた。
早朝のテルミナは波の音が優しく聞えるだけで他の物音は一切しない。
セルジュは後を付けるカーシュに全く気付いていないらしく、トコトコと階段を上り、銅像の前まで来る。
すると、銅像の陰で寝ていた一匹の黒猫がのそりとセルジュの足元にやってきた。
餌でも強請っているのだろう。ニャア、と野太い声で鳴きながらその黒猫はセルジュの脚に身体を摺り付けている。
セルジュはしゃがむとその黒猫の喉を擽る。黒猫は気持ち良さそうにごろごろと喉を鳴らしている。
だが、カーシュは眼を見張った。
セルジュは喉を擽っていた手を猫の首に回し、ぐっと締め付けたのだ。
猫は驚いてもがくが、セルジュの力が強いのかじたばたと首を絞められたまま暴れるだけである。
カーシュの立っている位置からはセルジュの顔は見えなかったが、彼はどんな表情をしてあんな事をしているのか。
セルジュはその猫の首を締め付けたまま立ち上ると、猫はぶらりと宙吊りになり更に暴れ出す。
セルジュは猫の首を掴んだ手をヒュッと振ると猫を銅像へ叩き付ける。骨の砕ける音と猫の微かな悲鳴がカーシュの耳に届いた。
ピクピクと痙攣を起こし、ぐたりとなったその猫をセルジュは飽きたようにぽいっと柵から遥か下方に広がる砂浜へ捨てる。
セルジュは柵にしがみ付いて砂浜に叩き付けられた猫の残骸を見ていた。

暫く見つめた後、ふっとセルジュはこちらに踵を返した。
カーシュは慌てて階段を降りると手近な物陰に隠れる。
セルジュは全く気付かずに階段を降り、宿屋へと帰って行く。
カーシュは隠れたままそっとセルジュの顔を窺った。
少年は、笑っていた。
いつもの花が綻ぶような笑みではなく、唇の端をくっと吊り上げた、暗く淀んだ笑みだった。
そしてその瞳は何処を見ているのか。
焦点の定まらぬその瞳のままセルジュは歩いていく。

セルジュの姿が見えなくなると、カーシュは先程のセルジュと同じように銅像の脇へ立ってみた。
その柵から下を見下ろすと、砂浜にはもう動かなくなった黒猫が横たわっている。
カーシュは不快気に眉を顰めると同じく宿屋へと戻っていった。



部屋へ戻るとそこにはマルチェラと同じく自分のベッドですやすやと眠るセルジュの姿があった。まるで夢でも見たような感覚にカーシュは襲われ、セルジュのベッドの脇に立ってセルジュの蒼い髪をそっと撫でてみる。
「ん……」
セルジュは微かに身動きしたが、起きる気配は無かった。
「………」
カーシュは近寄った時と同じく音を立てない様に自分のベッドへと戻った。



数時間後、目を覚ましたセルジュとマルチェラは共に朝食を摂っていた。
「カーシュが早く起きているなんて珍しいね」
「いつもなら一番後に起きるのに」
二人はそう言いながら朝食を口にしていく。
「それに……」
「何?」
セルジュは「何でもない」と笑って誤魔化す。
カーシュは「お前らが遅いから先食っちまった」と笑っていたが、何処かしら余所余所しかった気がしたのだ。
(気のせい、だよね?)
セルジュはサラダにフォークを突き刺した。


「カーシュ?どうしたの?」
部屋に戻るとベッドに横になっていたカーシュの元へセルジュは足を運ぶ。
「何か、今朝からずっと変だよ?」
「……お前、今朝何処行ってたんだ?」
「え?」
すっとセルジュの顔が強張るのをカーシュは見逃さない。
「……僕、何かした?」
寝転んだままのカーシュにセルジュは詰め寄り、聞き出そうとする。その表情は強張り、戸惑いと恐れに歪んでいた。
「ねえ、僕、何処かへ行っていたの?カーシュは知っているの?!」
「小僧?」
突然声を荒げたセルジュにカーシュは顔を顰めるとはっとした表情になったセルジュを見つめる。
「あ……ご、ゴメン…僕、きっと寝ぼけてたんだよ…」
「何隠してんだ?」
カーシュはむくりと起き上がると視線を逸らすセルジュに問いただす。
「隠してなんか……」
あくまでも言おうとしないセルジュにカーシュは小さく溜息を吐くとその紅い眼を蒼の瞳へと向ける。
「銅像の所から見下ろした砂浜に、猫の死骸があるのを知ってるか?」
セルジュは最初こそ「それが?」と言う表情をしたが、すぐにその表情が強張るのが分かる。
「昨日はまだ生きていたハズだ。見かけたしな」
「……僕が、殺したの?」
愕然とした表情に変わって行くセルジュをカーシュはいぶかしげに見やる。
「……覚えて、ねえのか?」
カーシュのその言葉にセルジュはきゅっと唇を噛むとこくりと頷いた。
「たまに…あったんだ…自分の周りで動物が殺される事…。初めて気がついたのは僕が十二歳の頃だった。一人でトカゲ岩まで遊びに行ってて、コドモオオトカゲと遊んでいたんだ。普通、コドモオオトカゲは人に懐かないのにそいつだけは近寄っても逃げなくて…嬉しくて触わったりしてた」
でも、とセルジュは言葉を繋ぐ。
「気がつくと、いつまでも帰ってこない僕を心配して迎えに来たらしい母さんがきつく僕を抱きしめていて…すぐ側にはさっきまで一緒に遊んでいたコドモオオトカゲが口から泡を出してぐったりしてた…。自分でも、よく分からないんだ…最初は普通に可愛いって思ってるのに……気がつくと殺しているんだ…それを見て、僕は知らない内に笑っていたんだ…!」
くしゃりと自分の髪に手を差し込んでセルジュは辛そうに顔を歪める。
「ねえ、カーシュ…僕はどうすればいいんだろう…もう、解らないよ…」
「小僧……」
カーシュはセルジュの腕を引くと、倒れ込んできたその身体をきつく抱きしめる。
「カーシュ……」
セルジュの腕がカーシュの背に回り、ぎゅうっと抱き返してくる。

――タスケテ…

言外にそう聞えてくるのに、自分にはどうする事も出来ない。慰めの言葉が彼にとって救いになるかもしれない反面、それはただの気休めにしかならない事もカーシュは知っていた。
カーシュはこれほど自分の無力さを感じた事は無かった。
「小僧…」
ただ、ひたすら抱きしめる。
今、カーシュに出来るのはその一つだけだった。





先程まで蛇骨館復興に駆け回っていたダリオは、漸く一息がつけると自室のソファに腰を下ろした。
「ふう……」
明日は何から行うのが効率的かと考えていると、こつん、と扉が叩かれる。
「?」
ダリオは静かに立ち上がると足を忍ばせて扉まで行く。
自分を尋ねてくる人物など、数えるほどしかいない筈である。
そしてその誰とも来訪の仕方が違う。
「……誰だ」
扉を開けずに問うと、「俺だ」とよく知った声が聞える。ダリオは迷わず扉を開けると、その人物を室内に迎え入れた。
「どうしたんだ、元気がないな」
昔だったら扉が壊れそうなほどガンガンと叩き、「オイ開けろ!」と怒鳴っていたカーシュが今日に至っては大人しい。
「………ああ」
「…どうしたんだ?」
ダリオが心配そうに尋ねると、カーシュはダリオのすぐ側まで近寄ってその腕を取る。
「カーシュ?」
「………抱いてくれ」
小さく呟かれたその言葉にダリオはぴくりと反応する。
「……何があったんだ?」
いつもなら何があろうと視線を逸らす事のなかったカーシュが、今は俯いて辛そうに顔を顰めている。
「……小僧が辛くても、何も出来ねえ自分に腹が立つ」
吐き出すような声はダリオの中に深く突き刺さる。
再開したあの時、少年を庇うように立つカーシュを見た時、気付いた。
カーシュがあの少年を愛している事を。
自分が、もう過去の恋人でしかないのだという事も。
「お前の気持ちを利用しているんだと解っている……でも、少しの間だけでも忘れていたい…全て……ふっ飛ばしてえんだ…」
「カーシュ……」
罪悪感から歪められるその表情もダリオの封じた筈の想いを抉じ開けるのには十分だった。
今でも、愛している。
そっとカーシュの頬に手を添えると、彼はびくりと震える。それでもダリオは両の掌でそっとその顔を包み込むと、今まで伏せられていた視線を合わせる。
昔と変わらぬその紅の瞳の奥は、様々な想いが犇めき合ってゆらゆらと揺れているように見えた。
「………カーシュ…後悔しても知らんぞ?」
「いい……俺が誘ったんだ」
ダリオは一瞬痛ましそうに目を細めると、カーシュの噛み締められた唇に自らの唇を押し当てた。


「……っ……」
胸の突起に舌を這わせると、カーシュが息を呑むのが分かる。
ベッドに腰掛けた自分の上をカーシュに跨がせたダリオは、カーシュの服を脱がしていきながらその胸の飾りに愛撫を加えていく。
「もう、五年になるか……お前を最後に抱いてから……」
ちゅっと固くなった突起に口付けると、肩に置かれたカーシュの手に力が篭る。
「カーシュ…」
腰帯を片手で解き、緩まったそこから中へと手を差し入れてその中心を握り込む。
「あっ……」
そこで始めて漏れた声にカーシュは赤面して顔を背ける。ダリオはくすりと笑うと、それに指を絡めて動かす。
「…っつ……ふ……」
「あれから…誰かに抱かれたか?」
「だ…かれて、ねえ…っ…あっ」
固さを増してきたそれの先端をぐりっと指の腹で擦ると、微かに腰が引いてダリオはそれを引き戻す。
「なら、抱いたか」
特定の相手を、と付け加えられ、カーシュは決まり悪そうに視線を泳がせた。
「っ!」
カーシュが引き攣った声を上げる。ダリオがそれの根本をきつく締め付けたのだ。
「……あの少年か」
つい子供じみた嫉妬心を露わにしてしまったダリオは、何度も頷くカーシュに「すまない」と小さく詫びると再びその性器を擦り上げる。
「ぁっ…ダ、リオ…っ」
空いた手で後部を探り、中指で突付くとびくりとカーシュの身体が揺れる。そしてそのまま差し入れればその肉壁は熱と共にダリオの指を絡め取る。
「ココ、前より貪欲になっているんじゃないのか?こんなに熱を持って…」
指をゆったりと上下させると、もう片方の手を添えている性器がビクビクと脈打つのが分かる。
「ダ、リオ…ダリオ…っ」
カーシュは恥ずかしそうにダリオの首筋に顔を埋めながらその名を連呼する。
「ここ…だろう?」
中に埋めた指がある一点を擦り上げると、その肉壁はきゅうっと指を締め付け、カーシュの唇からは留めない声が溢れ出す。
「は、あっ、ダリ、オ…っ!」
もっと深く指を貪ろうとするカーシュに、ダリオはその指を抜いて絡めていた手も放す。
「ダリオ?」
ダリオは物足りなさそうな顔をするカーシュをベッドの上に押した倒すと、その唇に口付ける。
「カーシュ…」
そして、もう一度だけ、問う。

本当に、後悔はしないのか?

「ダリオ……」

微かに濁った緋色の眼が、消えてしまいそうなほど鮮やかな笑みが、誘うようにダリオを見上げた。





目を覚ますと、思った通りダリオの姿はなくてカーシュは大きく伸びをする。
帰らなくては、とは思っているのだか、やはり気が滅入る。出来れば、もう暫くセルジュとは会いたくはなかった。
「……遠回りして帰るか…」
思ったより痛みのない腰を持ち上げ、のらりくらりと服を着たカーシュはダリオの部屋を後にした。



「あ〜……よわっちい〜…」
襲ってくるモンスターを愛用のアクスで薙ぎ払いながらカーシュは影切りの森をぶらぶらと歩いていた。
もう暫く歩けば出口へ差し掛かってしまう。カーシュはどうしたものかと思いながらもこれ以上時間を無駄に潰せばセルジュ達が心配するのは目に見えている。
「カ−シュ?」
「?!」
背後から声を掛けられ、慌てて後ろを振り向けばそこには蒼い髪をした少年がびっくりしたような眼でカーシュを見ていた。
「小僧…なんでここに…」
「あの…蛇骨館に迎えに行ったんだけど居なかったし…来る時すれ違わなかったからこっちから帰ったのかなって…」
カーシュは張り詰めていた気をふっと抜くと、「そうか」とだけ答える。
「んじゃ、帰るか…」
どこか勢いの無いままカーシュが自然に出来た木の根の橋を渡っていると、セルジュは何を思ったのか、突然カーシュの背を勢いよく押した。
「どわ?!」
不意をつかれたカーシュはそのままバランスを崩すと派手な音を立てて水の中へと落ちる。セルジュはそれに続いて自らも水の中に飛び込むと濡れた髪を掻き揚げているカーシュの腕をきゅっと掴んだ。
「何なんだてめえは!」
「……何で、何も言わずに行っちゃうの?あんな書き置きだけで…」
「小僧……」
きゅっと下唇を噛んで俯くセルジュに、突き落とされた怒りが一気に萎える。
「あ〜…ったく…」
カーシュは溜息を吐くとくっと指で近くの岩場を指す。
「その辺で乾かして行こうぜ。オラ、お前も枝集めろ」



ぱちぱちと木と炎がはぜる音を聞きながら、二人は暫くぼうっとしていた。
二人とも上着は脱ぎ、連なる岩に掛けてある。
「っくしゅっ」
セルジュが小さなくしゃみをすると、カーシュは苦笑してセルジュを呼ぶ。
「こっち、来るか?」
からかい交じりにそう言うと、セルジュは躊躇ったもののおずおずとカーシュの隣りにやってくる。カーシュはその冷えた体を引き寄せると、その唇に口付けた。
「カー……シュ……」
その触れるだけのキスにセルジュは恥ずかしそうにその瞳を伏せると、そっとカーシュの背に腕を回してきた。
密着するとセルジュの鼓動が伝わり、カーシュはぴくりと反応する。
「カーシュ…?」
カーシュはセルジュの体を岩肌に押し倒すと、そのあまり焼けていない白い肌に指を滑らした。びくりと反応したセルジュの胸の突起を摘み、もう片方に舌を這わせればセルジュは頬を朱に染めて首を左右に振る。
「カーシュ…ダメだよ…こんなトコで……」
カーシュはセルジュの細い首に手を掛けると、軽く笑った。
「誰も見てやしねえよ、ヤマネコ」
険を帯びたその声に、セルジュはふっと表情を無くす。
「芝居してる時はあんまくっつかねえほうがいいぜ?」
くっと唇の端を吊り上げてセルジュは笑った。
「心音か…よく気付いたものだ」
本物のセルジュがあの状況で通常の心拍数でいられる筈が無いのは、カーシュも良く知っていた。
「へっ!これでも四天王とまで呼ばれた俺様だぜ」
首に当てた手を緩めぬまま笑い返すと、セルジュはふっとその瞳を閉じる。
「ああ、そうだったな。忘れていたよ」
そして再び瞼を開けた時には、その青かった瞳は紅の色に染まっていた。
「…何のつもりか知らねえが…目障りなんだよ、ヤマネコ」
「今の私はヤマネコではない」
「はん、んな事俺の知った事かよ」
「フェイト、そう呼べ」
「お前俺の話聞いてんのか?」
さり気にマイペース同士がぶつかればろくな会話も出来やしない事がここで実証される。
「ダリオ」
突然出されたその名にカーシュは眉を寄せる。
「あの男に抱かれてまで忘れたかったか」
「……」
「忘れられたのか?」
沈黙したカーシュにフェイトは嘲るような笑みを浮かべる。
「忘れられるわけが無いのだろう?」
「……るせえ」
「堕ちろ…そうすれば楽になれるぞ…」
「誰がっ……!」
言葉を続けようとしたカーシュの動きが止まった。フェイトがそっとその両腕を持ち上げ、カーシュの頬を包み込んだのだ。
「あの娘ほどではないが…お前の闇も随分と深い」
ゆらゆらと自分と同じような色をした瞳は妖しく揺れ、カーシュをぐらつかせる。
そのまま腕は首に回され、引き寄せられる。フェイトに抱き込まれたカーシュは、その耳元で囁かれるセルジュと同じ声に目眩を感じた。
「堕ちるがいい……」
耳朶を柔らかく唇で挟まれ、カーシュは自分の中で何かが外れるのを、何処か遠くで感じた。


「ん……ふ…」
カーシュの性器を咥え、ぺちゃりと唾液の絡む音と共にフェイトはくぐもった声を時折漏らす。
「……っ……」
カーシュは自分の股間に顔を埋め、それにしゃぶり付くフェイトを見つめる。裏筋を舐めあげられ、微かに顔を歪めるとフェイトは更にそこを強く舐めあげる。
カーシュのそれが自分の愛撫によって固さを増していくのを楽しんでいるように見えた。
「…っ…フェイト…顔、離せ」
限界が近付いてきたカーシュがフェイトの髪を掴み引き剥がそうとすると、彼は離れる所か余計に刺激を与えてくる。
「フェ、イッ…」
カーシュがフェイトの口内に熱を放つと、フェイトは一瞬苦しそうに顔を歪めたものの、その白い喉が上下してカーシュの放った熱を飲み込んだのが分かった。フェイトは名残惜しそうに軽く吸い上げてから顔を上げた。
その紅い瞳を妖しく光らせ、同じ位紅い唇を三日月の様に吊り上げた。カーシュはそれに誘われるようにフェイトを押し倒すと、セルジュと同じ青いズボンを乱暴にずり下げて既に固くなっているフェイトのそれを握り込むと嘲るように笑った。
「触わってもねえのにこんなにしてんじゃねえよ」
「慰めてくれるのだろう?」
からかい混じりにくすくすと笑うフェイトのそれを扱き上げると、彼の表情から笑みは消え、代わりに快楽に溺れていく淫らな顔へと変わっていった。
「はっ……ぁあっ…」
脈打つそれを扱き上げながら首筋、鎖骨へと唇を滑らせ胸の突起に辿り着くとカーシュはそれをちゅうっと吸う。
「んっ…は、ぁ……」
びくんと背が撓り、フェイトの指がカーシュの髪に絡められる。
ピンクのそれを吸い、舌先で突付くとフェイトは甘ったるい声を洩らしながら身を捩る。
「カー、シュ…んっ…!」
指で括れをなぞるとフェイトの身体はびくりと跳ね、熱を放った。
カーシュはツッとその体液に塗れた指を秘められた場所へと滑らし、そこを円を描くように撫でる。
「…っ…」
「ゾクゾクしてんだろ?ココ…ヒクついてるぜ…」
「は…やく…」
フェイトが熱に浮かされたような目でカーシュを見上げる。カーシュは喉の奥で微かに笑うと一気に中指を奥まで差し入れる。
「!っぁあっ……!」
埋めた指をくくっと曲げると、先程達して萎えていたフェイトのそれが再び勃ち上がり始める。
「あっ…っは、ぁあっ……!」
「…ココがイイんだろ…?」
襞の一点をぐりっと指の腹で強く擦ると、フェイトは引き攣った声を上げ、その身体は強い快感に悦ぶ。
セルジュの身体を知り尽くしているカーシュにとって、同じ身体を持つフェイトを快楽の波に陥れる事など容易な事であった。
「カー…シュ…っ…」
先走りの液を滲み出し始めたそれを見てカーシュはにっと笑い、指を引き抜く。
ぐっとフェイトの両脚を押し開き、フェイトと同じく再び怒張している己のそれを先程まで指で弄っていた場所に押し当てる。
「ん…っ…」
押し当てられたそれの感触にフェイトがぴくりと揺れる。
「息、吐けよ」
「ぅあっ…く、ぅ……ああぁっ!」
先端の括れの辺りまで挿れ、一旦止まる。フェイトがふと身体の力を抜いた途端、一気に奥までカーシュは己を突き刺した。するとフェイトの怒張したそれがびくんと一層張り詰めたかと思うとその先端から勢いよく白濁した精液が再び吐き出された。
「はっ…ぁう……」
「挿れられただけでイッちまったのか?ん?」
からかい混じりにフェイトの耳元で囁くと、きゅうっと繋がったそこを締め付けられる。
「っ……!」
危うく達しそうになったカーシュは舌打ちするフェイトの首筋に噛み付く。
「っつ…何をするっ…」
「てめえこそそういう事すんなよっ」
ぐっと腰を進めるとフェイトが小さく反応する。
そのまま激しく突くとフェイトの唇からは留めなく悲鳴に近い声が漏れた。
「あ、っくぅ…ん…!」
フェイトの腰を掴み、叩き付けるように前後させるとフェイトはカーシュの二の腕にきつくしがみ付く。
「あっ、あ、カー、シュ、カーシュ……!」
「痛…爪立ててんじゃねえよこのネコが…」
絡み付いて来るその熱い内部に頭の芯まで溶かされそうになりながらもカーシュはフェイトの腕を引いて抱き起こした。
「は、あっ…」
カーシュの上に跨る格好になったフェイトは自分の体重で更にカーシュと深く繋がり、背を撓らせる。
「てめえこそ、堕ちやがれ」
腰を突き上げると、フェイトはカーシュの肩に手を添え、それを貪るように自ら腰を振り出す。
「はっ、あ、う…ん…っはぁ」
フェイトは添えていた腕をするりと首に回し、抱き着く様にして律動する。
「…っ!」
熱さを増したその内襞に締め付けられ、カーシュは微かに揺れるとフェイトの中に射精した。
「んっ、ぁあっ!」
奥まで勢いよく注ぎ込まれた熱にフェイトは喜悦に震え、同じように達する。
「っは…ぁ……」
最後の一滴まで搾り取る様にフェイトの内膜は卑らしくヒク付いている。
セルジュへの罪悪感からか、後味の悪さにカーシュがその藤色の髪を掻き上げると、呼吸の乱れを整えたフェイトが口付けてきた。
「……」
カーシュは眉を寄せるだけで抵抗せずにそれを受け入れる。
フェイトの唇はすぐに離れるとペロリとカーシュの唇を舐め、薄く笑った。
「それなりに良い暇潰しになった。礼を言う」
カーシュが複雑な表情をしていると、フェイトはくつくつと喉で笑いゆっくりと立ち上る。
「あの男に私…お前の穢れた闇がどんどん広がっていく…」
乾いた服を取り上げ、フェイトは可笑しそうに笑う。
「お前はセルジュから離れられなくなるだろう。あの純真だが、誰よりも穢れたその存在から…」
服を着終わると、フェイトはふわりと浮き上がった。
「セルジュに伝えろ。『早く来ぬとお前から全てを奪ってしまうぞ』とな」
低い笑い声と共にフェイトは景色に溶け、消えていった。
「………」
それを見送ったカーシュは髪をもう一度掻き上げると、くしゃりと指に絡まった髪を握り締め、その紅いの眼をきつく閉じた。






「あ…お帰り」
日が傾き掛けた頃漸くテルミナの宿屋に帰ると、部屋ではセルジュが気落ちした様子でベッドに座りカーシュを出迎えた。
「おう…他の奴等はどうした?」
「あ、マルチェラは街へ遊びに行っているよ。あとはイシトとギャダランが情報収集に行ってる。他のみんなは知らない」
「そうか」
短く応じると、セルジュは「あのさ」と小さく呟く。
「やっぱり……気味悪いよね…カーシュも、僕の事軽蔑しただろ?」
「そんな事ねえ!」
即答され、セルジュはびくりと反応する。
「でも…んっ…」
尚も言い募ろうとしたセルジュの言葉を飲み込むようにカーシュは口付けた。
舌を侵入させると、彼の小さな舌は一瞬逃げるような素振りを見せたがすぐにおずおずとカーシュに応じてくる。
「…っ…ふ……ぁ…カー、シュ……」
そっと離れると、セルジュはとろんとした瞳でカーシュを見上げる。カーシュはセルジュの隣りに腰を据えると、セルジュを抱き寄せるとその髪を優しく撫でてやる。
「何があっても俺はお前を嫌いになんかなんねえよ」
「うん…ありがとう……カーシュ……」
そうやって暫く髪を梳いていてやると、セルジュは安心したのか、そのままカーシュにしがみ付いたまま眠りに就いてしまった。
「………」
カーシュは寝息を立てるセルジュを抱えたまま静かに横になるとその眼を閉じる。
「……すまねえ」
ずっと自分の帰りを待っていてくれたのであろうセルジュ。
セルジュが心配している時、自分は何をしていた。
一時の逃避の為に昔の恋人を利用した上に、セルジュと同じだが異なる容貌をした相手の誘いにろくな抵抗も無しに流された。
――カーシュも、僕の事軽蔑しただろ?
恐る恐る紡ぎ出されたその言葉。
「軽蔑されるのは、俺の方だ…」
カーシュはもう一度謝罪すると、セルジュの身体をきつく抱きしめた。





(続)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ゴメン!続いちまったよ!!しかも予定してたカップリングの一部しか書けなかったし!!せっかく伏線も張ったのに結局使わなかったし!!!しかもカーセルメインじゃ無いような…(死)後半はフェイト様とイシトとギャダラン辺りが出張ってくるんだな、これが。何故にギャダラン?って感じですね…最初はアルフだったのよ…でもアルフってよく分からないから…ギャダに変更(爆)。えりっこ様、こんなケガレを押し付けて申し訳ないです(>_<)しかも続きましたし。宜しければお付き合い下さい(死)
(2000/08/07/高槻桂)

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