『君を包む太陽の光を』

 


――おにぃ!また俺のおやつとったやろ!!

あー?

――おれが後で食べよ思てとっといたクッキー三枚足りぃひんやん!

んなもんテーブルに置いとく方が悪いやろ

――ちゃんと「アリスの」て紙置いといたやん!

ああ、悪い、最近目が悪くて見えんかったわ

――〜〜〜!!はくにぃのアホぅ!たんちん!たぼ!

あーはいはい、わかったわかった、ほら

――…毎度毎度こんぺーとーで釣れる思てるん?

お?要らんのか?

――誰が要らん言うた!しゃあないで貰らっといたるわ!

……

――あ、笑ろたな!もおええわ!はくにぃなんてキライや!



「……」
添乗員のマイクを通した声に男は目を開けた。
ああそうだ、今自分は飛行機の中にいるんだった。
(懐かしい夢見たな…)
余りにもリアルで、眼が覚めてからも数秒、昔に戻った気になっていた。
最後に見たのは、アリスが高校三年生の夏。
――はくにぃ、元気でな
にこりと、それでも儚げに笑っていた弟。
彼は高校二年の夏、心に傷を負った。
とてもとても大きな、傷を。
だから、彼を置いて行くのは忍びなかった。
両親は知らない。
彼にそんな傷があるなんてきっと知らない。
彼は隠したがっていた。だから、自分もそれに協力した。
あれから、もう十年以上が経つのか。
あの子は、どんな顔で出迎えてくれるのだろう。
遥か下方に見え始めた陸地を、まるで眩しいものを見るかのように目を眇めた。




「火村〜、夕飯どないしよ?」
夕陽丘の自宅にて、ソファの上で寛いでいたアリスはむくりと起き上がってキッチンヘと身を乗り出した。
「そうだな…冷蔵庫のモンは昨夜使っちまったし…買い出しに行くのと外食、どっちが良い?」
彼はコーヒーの充たされたカップを二つ手にリビングへとやってくる。
ほら、と差し出されたカップを受け取り、うーん、と唸る。
「どっか食べに行こか。昨日からずっと火村に作らしてしもてるし」
そこで自分が作ると言う頭が無いのがアリスだ。
「俺はどっちでも構わねえけど…何が食べたいんだ?」
「うーーんと…」
ピンポーン…
「あ、お客さんや」
ことんとカップを置いてアリスは立ち上る。
はいはいはーい、と呟きながらアリスは玄関へと向かった。
火村に毎度注意されながらもついつい扉穴から相手を確認するのを忘れてしまい、アリスはそのままがちゃりと扉を開けた。
「はい、どちらさぅわっ!!」
「ア、リーーーッス!!」
相手を見る間も無く抱きしめられ、アリスは目を白黒させた。
「アリス!?」
アリスの叫び声にやってきた火村は、咄嗟にどうするべきか迷った。
「ああ、アリス元気やったか?怪我してへんな?病気にもなってへんな?可愛いまんまやな?」
いやもう、何て言うか、ハートマーク飛びかってそうで…流石にちょっと、割って入るには勇気が要ると言うか何と言うか…。
「…っぷはっ!急になん…あーーーーーー!!!!」
アリス、近所迷惑。
「声も相変わらず可愛くて安心したわ〜」
アリスの絶叫を間近で聞いたはずの男はそれでもにっこにこだ。
「は、は、は、」
「何やアリス、発声練習か?」
「違うわボケ!はくにぃ、何で日本におるん?!」
「勿論アリスに逢う為やん!」
「……兄、だと…?」
勝手にヒートアップしていく玄関先の二人に置いてけぼりを食らった火村は顰めっ面で呟いた。







+−+◇+−+
えーっと、勢いで書きました第二弾。オリキャラ出してしまいました。(爆)
作家編でのアリスの家族構成は不明ですが学生編のアリスには兄がいたと知った時から出したいなーと思ってたので…。実はこれ、対になる話があるんですね、これが。対になる、といっても別に話がリンクしているわけじゃないです。ただ単にどちらも「アリスを溺愛する兄」というコンセプトで書いてみただけで。それにしても、今回みたいなテンポは好きなんですが書くのは苦手。精進します・・・(爆)
(2002/08/27/高槻桂)

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