オトメチックエゴイスト〜第壱拾弐の夜〜


ずっと傍にいる。
ずっとあなたの傍にいるわ。
だから大丈夫。そんな風に泣かないで。
ずっと私があなたを抱いていてあげるから。
そんな風に微笑わないでいいのよ。





浅瀬を歩む君の滑らかな脚




第12話「手塚国光の告白」


「…俺が、いる」
「てづ…」
乾が顔を上げようとするが、手塚は己の表情を見られたく無いらしく、乾を開放しようとはしない。
「お前が誰を選んでも、お前が俺を必要としてくれる限り、お前の傍に居る」
端から見れば、自分たちは異常に映るのだと分かっている。
自分たちとて、他の友達と口付けを交わしたりなどしないし、女同士ならまだしも、男同士で抱き締めあったりなどはまず無いだろう。
けれど、自分たちのそれは言葉を交わす必要を殆ど持たず、言葉を紡ぐ事が苦手な手塚には乾のその触れ合いが有り難かった。
言うなれば、これは、乾と手塚だからこその関係だった。
そして、乾は手塚をそういう対象として扱うことは無かったし、手塚も今日この瞬間まで、自分が乾を恋愛の対象として見ることはないと思っていた。
だから今までこの均衡が崩れる事が無かったのだ。
「乾……」
しかし手塚は気付いてしまった。
自分が乾の全てを求めていることに。
だが、それを乾に伝えてしまえば、乾はきっと今までのように自分に触れてきてはくれないだろう。
だから、せめてこれくらいのポジションを得る事くらいは許して欲しかった。
乾の、最大の理解者の地位を。

自分が彼の恋情の対象にならない事を、手塚は知っているのだから。

「お前が望むなら、望むだけ傍に居るから」
乾の固めの髪に頬を寄せると、乾の腕が腰に回され、抱き返される。
「手塚…」
「何だ」
「手塚」
「…お前はそれしか言えないのか?」
呆れたような声音でそう言うと、腕の中で乾が小さく笑う。
「だってさ、何か、感動モノ」
「そうか」
「甘やかしたら駄目だろう、手塚」
「そうだな」
手塚の応えに、今度は乾が呆れたように顔を上げる。
「わかってないだろ」
「わかってるさ。でかい子供がいるって事だろうが」
「それを言うなら手塚も子供だろう」
その言葉に手塚は憮然として言い返した。
「お前よりはマシだ」
「それもそうだね」
二人は顔を見合わせ、ふうわりと微笑いあった。




(第13話に続く)
(2001/11/05/初出)
(2007/07/29/改定)

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