オトメチックエゴイスト〜第壱拾四の夜〜


あなたの愛は私だけのものじゃあないけれど。
それでもいいの。
あなたが私を認めてくれたから。
あなたの心の中に私を入れてくれたから。
だから、それでいいの。
今は、それだけで。





浅瀬を歩む君の滑らかな脚




第14話:「あなたの愛は私のものじゃあないけれど」


「手塚は言わないんだ?」
約束通り部活が終ると手塚は不二に連れられ、器具庫に居た。
二人ともすでに着替えを済ませ、学生服を着込んでいる。
不二に至ってはこのまま帰る積りらしく、鞄も手にしている。
「何をだ」
「乾に好きだって」
「……」
手塚の表情が僅かに険しくなる。
「言わないんだ?」
「……言う必要など、ないだろう」
しばしの沈黙の後呟かれたそれに不二はそうだね、と微笑んだ。
「君は乾の恋愛対象ぢゃあないものね」
「!」
ぎっと手塚が不二を睨み付ける。だが、不二は悪びれた様子も無く言ってのけた。
「手塚が乾に愛されることはないんだもの。言っても無駄だよね」
「……要件がそれだけなら戻らせてもらうぞ」
踵を返し、器具庫を出ていこうとするとその腕を捕らわれる。
「いい加減…!?」
掴まれた腕はそのまま引き寄せられ、唇に軟らかな感触が当たった。
「…見ていられないんだ。僕は手塚が好きだよ。だから、そんな君は見ていたくない」
手塚はその切れ長の眼を大きく見開き、不二を見ている。
「手塚が、好きなんだ」
もう一度口付けようとすると、それは手塚の手に遮られた。
「…済まないが、受け入れる事は、できない」
「どうして?愛してくれない乾より、僕のほうが手塚を満たしてあげられるぢゃあないか」
それは違う、と手塚は首を振った。
「手塚?」
手塚は、微笑んでいた。

「俺は乾に愛されている」

今まで乾を恋愛対象と見たことは無かった。
だが、想いは疾うに彼を見ていて。
それに気付いたのは、つい最近のこと。
たとえ、乾が与えてくれるそれが恋でなくとも。
「愛されていることに、変わりはない」
微かなりとも、愛されたいと願ってしまったことは真実だけど。
「乾は最大のポジションを俺に与えてくれた」

心の内側に、迎え入れてくれた。

「それ以上を望むのは、欲張りだと思う」
「……ホントに、それで良いワケ?」
「…まだ、不安で潰されそうになる。だが、」
それも、悪くはないと思える。
こんな感情は、初めてだから。
「乾を、支えてやれたら良いと思う」
そう言うと、手塚は機具庫を出ていった。
済まないと、もう一度だけ告げて。
乾の待つ部室へ、戻っていった。






(第15話に続く)
(2001/11/12/初出)
(2007/07/29/改定)

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