オトメチックエゴイスト〜第五の夜〜


あなたが楽しいなら私も楽しい。
あなたが嬉しいなら私も嬉しい。

私はあなたが大切だったけれど。
あなたは私を疎んじていて。

あたなの笑顔を当たり前のように受ける彼が、
少しだけ、羨ましかった





浅瀬を歩む君の滑らかな脚




第五話:「不二周助」





最近の裕太は機嫌が良い。
僕への態度は相変わらずだったけど、比較的仲の良い由美子姉さんには色々と話すようになっていた。
『乾さんのテニスはさ、』
専ら、乾の事だったけれど。
僕がいると裕太はむすっとして話さなくなってしまうから、隣の部屋でこっそり盗み聞き。
あんなに楽しそうな裕太の声を聞くのは久しぶりだった。きっと表情も凄く活き活きとしているんだろうね。僕に見せてくれることはないだろうけど。
それにしても乾に懐くなんて意外も良い所だよ。テニススクールに通うようになったのも乾の進言だって言うじゃないか。
乾も乾だよね。この僕に何も言わないなんて良い度胸してるよね。あ、元からか。
『でも、今日、さ……』
不意に裕太の声のトーンが下がり、聞き取れなくなる。
こんな時は集音機を使おう。結構前に玩具屋で面白そうだったから買ったんだけど(税込み525円だったし)案外使えるんだよね、コレ。
集音機を壁に当て、そこから伸びているフォンを耳に嵌めてスイッチをオンにする。
ザーッという不快音と共に裕太の声が聞えて来た。
――…づかさんが乾さんに、乾さんにとって自分は友達なのかって聞いて……
聞えてきた内容に少なからず驚いた。あの手塚がそんな事を言うなんてね。
――そしたら、乾さん、「好きだよ」って……
乾、それ答えになって無い気がするんだけど。
――その時の乾さん、凄く、優しい感じで…手塚さんは、特別なんだって思い知らされたっつーか…凄く、手塚さんが羨ましかった……
手塚と乾ってそういう関係だったっけ?確かに仲は良い方だとは思ってたけど……さっそく明日にでも問い詰めてみようっと。
それにしても裕太、ちょっと乾に懐き過ぎ、かな?







(第六話に続く)
(2001/10/19/初出)
(2007/07/25/改定)

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