オトメチックエゴイスト〜第七の夜〜


なんなのよそれ。
なんなのよ、冗談じゃないわ!
どうしてあんたに口出しされなきゃならないの?
あの人まで私から取り上げようっていうの?
そんなの、絶対に赦さないんだから。
あの人だけは、あんたに渡すもんですか!





浅瀬を歩む君の滑らかな脚




第七話:「乾貞治から不二裕太へ」



「裕太を突き放して欲しいんだ」

その言葉を聞いてしまったのは、偶然といった方が正しいのだろう。


二人で話している最中、何かの弾みで部活が早く終わると乾が告げた。その時裕太は咄嗟に今日の約束を取り付けていたのだ。
テスト前だったし、勉強をしたかったのでは、と後悔に陥ったりもしたが、それでも乾が自分を優先してくれた事への嬉しさの方が勝っていた。
指定された時間より少し早めに校門へと向かう。
これでは初デートへ望む女子のようだと自分を叱咤しつつも、それでも嬉しいと思う気持ちに揺られながら門に背を預けた。
「あっ」
すっと目の前を見知った姿が通り過ぎた。
「……」
裕太の声に気付いたのか、手塚はちらりとこちらへ視線を向けると軽い会釈をして去っていく。裕太も慌てて会釈を返してから手塚の立ち去った方向とは反対側の、部室のある方へ視線を向けた。
手塚が帰ったという事は乾も部室を出たのだろう。ここからなら行き違いになる事も無い。
裕太はそう思い、校門から身を起こすと滅多に近寄らなかったテニス部の部室へと向かった。


(げっ!兄貴と一緒かよ)
遠目にその後姿を見つけた裕太は、乾の傍らに兄・周助の姿がある事に気付き、足を止めた。

そして、耳に飛び込んで来た兄の台詞。


ユウタヲツキハナシテホシインダ。


「…んだよそれ!」
「裕太?!」
怒気の篭った裕太の声に二人は背後を振り返る。そこには目を鋭く怒りに染めた裕太が不二を睨んでいた。
「裕太、いつからそこに…」
「そんな事どうだって良いだろ!それよりどういう事だよ!!」

「裕太」

「っ!」
静かな、いつもと変わらない乾の声が、いつもとは違う呼び方をする。裕太はそれにびくりとして口を噤んだ。
「道中話すよ。行こうか」
きっと不二が説明しても、今の裕太には冷静にその内容を処理できないだろう。となればバス停までの時間で彼の熱を冷まし、それから説明をしてやれば良い。
乾は不二へ目配せをすると裕太の腕を取る。
「でもっ…!」
乾に引かれながらも彼と兄を交互に見る。すると不二は乾に一任する事にしたらしく、いつもの笑みを浮かべ、二人に軽く手を降っていた。




(第八話へ続く)
(2001/10/20/初出)
(2007/07/27/改定)

戻る