オトメチックエゴイスト〜第八の夜〜


お願い、傍にいて。
私にはあなたが必要なの。
だからお願い。
私を見て。私だけを見て。
私にはあなたが必要なの。
お願い、傍にいて。





浅瀬を歩む君の滑らかな脚




第八話:「不二裕太から乾貞治へ」



「依存なんて…!」
きりっと裕太は唇を噛み締める。依存などしていないと言い切れなかった時点で、裕太自身にも思う所があるのだと分かる。だが、それでも乾はそうだね、と裕太を肯定した。
「それで…」
裕太は口篭もった。
一番、聞きたいこと。
だからこそ、聞くのが怖い。
「乾さんは…」

乾サンハ、オレヲ突キ放スンデスカ?

一人で大丈夫だと思っていた。
けれど、年なんてたった一つしか違わない筈の、この「乾貞治」という存在に出会って、自分は大きく変わった。
この人の元で強くなりたいと願うようになった。
いつか、兄を負かす事ができた時は一番に祝って欲しいと。
そして、そう思える人を見つけれた事を誇らしく思う自分がいることにも気付いていた。

一人に戻りたくない。

これが依存なのだろうか。
この人の指導力や、人柄への信頼ではなく、自分の甘さからの依存なのだろうか。
問い掛けてしまえば、依存していると突き放されてしまうかもしれない。
「……乾さんは、オレを…」
「裕太君」
はっとして顔を上げるが、乾は前を見据えたままだった。
「乾…さん…?」
じっと次の言葉を待つと、「俺はね、」と相変わらずいつもと変わらないその声音が降ってくる。
「俺を必要としてくれる限りは見捨てたりはしないよ」
そう言って乾は裕太を見下ろしてきた。
「え……」
裕太は戸惑った。それは、遥かに優れた兄の忠告より、自分の願いを優先してくれると言うのだろうか。

「俺は、必要かい?」

きっと、そう言われた時の俺は酷く間の抜けた顔をしていたんだと思う。
「…っ…」

けど、そんな事どうでも良くなるくらい、溢れる温かさ。


「はい!」



この人に出会えて、本当に良かった。








(第九話に続く)
(2001/10/21/初出)
(2007/07/27/改定)

戻る