月如凛光



1.伊達に嫁ぐ。




「伊達へ嫁がせて頂こう」
そうはっきりと告げると、三郎兄、と幸村が悲壮な声を上げ、政宗はぴゅうと口笛を吹いた。
「そう来なくちゃな!」
「となると一度越後に戻らねばならんな」
思案しているとくいっと袖が引かれた。幸村だ。
「三郎兄、本当に良いのですか?」
「幸村、長いこと世話になったな。そなたが救ってくれたから今の私が在る。礼を言う」
「三郎兄…!」
じわりと込み上げるものがあったのだろう。
「おいで、弁丸」
唇を振るわせる幸村に向かって緩く腕を広げると、半泣きの幸村が飛び込んできた。
「さぶろうあにいぃぃぃ!」
「おお、そなたと離れるのは心苦しいが達者で暮らせよ」
「三郎兄も御達者で…!」
「弁丸…!」
「三郎兄っ!」
ぎゅう。
「「………」」
ナニコレ、と指差す主に、小十郎は無言で首を横に振った。




景虎が「愛姫」と呼ばれるようになって早五年が過ぎた。
織田は三国同盟によって討たれ、代わって台頭してきた豊臣もまた三国の圧倒的な力によって抑え込まれた。
「愛!初雪だぞ!」
勢い良く部屋に飛び込んできたのはこの米沢城城主であり、景虎の夫である政宗であった。
「父上!」
政宗は彼と同じく勢い良く腕に飛び込んできだ少女を受け止めた。
「五郎八!愛と弾き遊びをしてたのか」
畳の上に転がっている貝殻を拾い上げ、五郎八に渡した。
「はい、今、母上と五郎八はいーぶんです」
父親の影響を受けてか五郎八もまた異国語を好んで使っている。
「そうか、なら父も参戦しようじゃねえか」
「父上は五郎八の味方ですよね?」
「Of course!愛には虎菊丸っつー強い味方がいるからな!」
虎菊丸とは景虎の腕に抱かれている乳飲み子である。
「それはそうと、先ほど雪が如何とか言ってなかったか」
目的をすっかり忘れている政宗に突っ込むと、そうだった、と彼は笑った。
「さっき雪がちらついててな。このまま降るようなら後で雪見酒とでも洒落込もうぜ」
そう言って政宗の指が薄紅色の貝殻を弾いてもう一つの貝殻に当てる。
「父上、すごいです!」
「俺にかかればこの位お手の物だぜ」
すると今度は景虎の指が同じ様に貝殻を弾いてもう一つに当てた。
しかも今度は政宗が飛ばしたものより長い距離を、だ。
「げ」
「母上もすごいです!」
「政宗殿が参戦なさるなら、こちらも負けてはおられませんゆえ」
「童遊びに本気出すなよ」
「何事も全力でかかるのが伊達家のぽりしーなのではないのですか?」
その一言で火が付いたのか、政宗は袖を捲り上げると畳の上にうつ伏せた。
「ならTea timeの菓子をかけて勝負といこうじゃねえか!」
「父上、勝ってください!」
「おう!」
「ふふ。負けてはいられぬな、虎菊丸」
一家の団欒を傍らの火鉢がぱちりと火花を散らせて眺める。
仕事を放り出してきた政宗に気づいた小十郎が怒鳴り込んでくるまで、貝殻の弾かれる音が途切れることは無かったという。






***
結局作ってしまった筆頭エンドでした。(笑)



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