01.ストレッチ
(新田東一年/バッテリー)


部室で着替えていると、ふと東谷が豪と巧を見た。
「お前らって絶対ストレッチ一緒にやらんよな。なんで?」
二人の着替えの手が止まる。ただし巧はすぐに着替えを再開する。
「そういえばそうじゃな。いっつも原田は俺で、豪はヒガシとやるもんな」
沢口の言葉に東谷もそうそう、と頷く。
「何だよ、俺とやるの嫌なのかよ」
ベルトを締めながらの言葉に沢口は首を横に振った。
「そうじゃのうて、他のメンバーともやるくせに、豪と原田の組み合わせだけはいっぺんも無いじゃろ」
「別に良いだろ、そんな事。なあ、豪」
「あ、うん、そうじゃな」
話を振られて漸く豪は着替えを再開する。
「まったまたー、ホントは恥ずかしいんじゃろ?」
そこに割り込んできたのは吉貞だった。
「お前ら良く考えてみろよ、ストレッチちゅうたら思いの外アヤシイ体勢のがあるやろ。そんなん原田と永倉がやってみい。『あっ、ダメよ豪、こんな人前で!アタシ恥ずかっ」ごすっ。
腰をくねらす吉貞の脳天に巧の手刀が見事に落ちた。
「バカかお前は」
「てめえ原田!天才吉サマのキチョーな脳細胞が大量に死滅したぞ!この世界的損失をどう責任とるつもりじゃ!」
「世界が救われて寧ろ感謝して欲しいくらいだぜ」
「なんじゃとー?!」
吉貞と巧が言い合いをしている中、東谷と沢口はじっと豪を見つめていた。
「「………」」
豪は紅く染まった顔を隠すように俯きながらもそもそと着替えている。
ああ、問題があるのは原田じゃなくて、豪のほうか…。
二人はそれぞれ別の方向を向き、乾いた溜め息をついた。

 

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