「それで、何か用か?」
そう聞いてみると、ギャダランは暫し考え込みました。どうやら単に通りがかっただけの様です。
「気配を探していた」
「はあ?」
カーシュの表情がそりゃあもう「わっけわかんねー」と語っていたのでギャダランは経緯を解説しました。
どうやら奇妙な気配がしたのでそれを追っていた所、カーシュに出くわしたと。
「奇妙っつーと?」
「わからん。動物なのか人間なのか・・・」
そう言うとギャダランはその気配を追うべく去っていってしまいました。
カーシュさんはと言えば、特に気にせず再びチュコトの実を口にします。
「やれ漸く去ったか」
「?!」
頭上から振って来た声にカーシュはびくりとしてついうっかりチュコトの種を噛んでしまいました。あはは、おバカさん。
そうする間にも上空からアルフが振って来てカーシュのすぐ隣に着地します。足、痛くないんでしょうか。
「散歩をしていたらどうも後を尾けられてな」
だからって、気配消せれるのならそんな20メートル近く上空の樹の枝に登らなくてもいい気がしますが。
「ん?どうかしたか?」
口元を抑えて俯いているカーシュにアルフが声をかけると彼はぺっとかみ砕いてしまった種を吐き出します。
「アホかー!てめえのせいで舌がクソ痛えんだよ!!」
「ああ、チュコトの種を噛んだのか。それはすまなかったな」
(ぜってえ悪いだなんて思ってねえ・・・)
表情一つ変えずさらりと言って退けるアルフに、怒りを通り越して半脱力状態です。
「うー・・・・」
コイツに文句を言っても仕方ないと本能で察したカーシュはアルフを無視し、舌の痺れを紛らわせようと他の実を手にします。
「治してやろうか」
「あ?治せるモンなら治してみやがれ」
アルフの言葉にカーシュは考え無しにそう返答します。アルフは「良いだろう」と呟くとカーシュに顔を寄せ、口付けました。
「?!」
驚いたカーシュが逃げようとしますが手でがっちり頭を固定されてしまいカーシュに逃げ場は有りません。隙が有るにも程が有りますね。だから襲われるんですよ。無防備すぎると言うか何と言うか・・・戦闘時の気迫はアンタどこに行ったのと言いたくなりますね。ああ既に言ってしまいましたね。これは失礼。
「んーー?!」
しっかりと舌まで入れられてしまい、カーシュはパニック状態です。
「・・・・・っぷはっ!何しやがる!!」
ごしごしと口元を拭いながらそう怒鳴るとアルフはおやおやと肩を竦めます。
「治してやったと言うのにその言い草はないだろう」
「あ?!」
はっとしてみると、あら不思議。舌の痺れがとれてるじゃありませんか。
「〜〜〜〜〜!」
これはもう文句は言えませんね。治してみろと言ったのは他でもないカーシュ自身なのですから。
「〜〜ありがとよ!!」
殆どやけっぱちでそう言うとアルフは口元を微かに持ち上げて心持ち笑ったような笑ってないような表情になります。どうせなら思いっきり笑ってくれと言いたい所ですがこの人がゲラゲラ笑ったらそれはそれで恐いのでやめておきましょう。
「ああ、また誰か来るな」
アルフはそう言うとさっさと立ち上ってどこかへ消えてしまいました。
「・・・・・・なんだったんだ、あの野郎・・・」
カーシュは先程の口付けを思い出して赤面します。いい年扱いてまあ。
「・・・・・・・・甘い」
さっきまでは苦い痺れが広がっていた口の中は、何故か甘い感じがしました。

ところでこのアルフ、かなり偽者臭いですね。





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