「で?何しに来たんだ?」
ここまでのこのこと付いて来ておいてよくもまあ今頃聞けるもんです。
いや、この場合目的も聞かずに付いてきた事自体アレですな。
「ああ、霊廟に行こうと思ってさ・・・」
グレンの返答にカーシュは「ふーん」と生返事を返します。
「なら花飼ってくか」
「そうだね」
と、言う訳で二人は花屋へ行きました。
男二人で、しかも四天王と四天王頭領の弟が花屋へGOです。周りの人々は何処か遠巻きに過ぎていきました。
「おばちゃん、アレ、あるかい?」
グレンが鉢植えに水を撒いてたおばちゃんに声をかけます。
「おや、グレンちゃんじゃないか!カーシュ様も一緒でしたか!」
にこにこと愛想の良いおばちゃんはじょうろを置くと、「あれまあ」とおばさん特有の甲高い声で応じます。
「最近見ないからどうしちゃったかと思ったわよ」
「うん、最近はちょっと忙しかったから・・・」
「それで久し振りに来たと思ったらカーシュ様も連れて来てくれるなんて!おばちゃんスッピンのまんまだよ」
あらやだアハハハハと一人で笑いこけるおばちゃん。
「あ、あはは・・・それより花を・・・」
「私もあと20年若かったらねえ〜オホホホホホホ」
何の話をしてるやら。どうやら人の話を聞いちゃいないおばちゃん。
「グレンちゃん、ほら、青リンドウ」
見かねた親父さんが花を束ねてくれました。
「あ、ありがとう」
グレンはお金を親父さんに渡すとおばちゃんをちらりとみます。
「ああ、あいつは放って置いて良いから、行った方が良いさ。いつ話終るかわからんからな」
「う、うん・・・・それじゃ、また来るよ」
「それでね、この前入荷に行ったら新しいバラがね・・・」
最早誰に向かって話し掛けているのか疑問ではあるがおばちゃんはまだまだ話し続けています。いつもの事とはいえ、やはりこればっかりは慣れません。
「んじゃ行くか」
さり気に少し離れておばちゃんのお話攻撃範囲外に居たカーシュが霊廟に向かって歩き出します。
軽く頷くと、グレンもその後を追いました。
「その時ウチの娘ったらねえ〜」
一人喋るおばちゃんを残して・・・・・・
「・・・なあ、カーシュ兄、何で付いて来てくれたんだ?」
「ん?いや、何と無く」
「・・・・・そう、か」
こういう時は「お前の為に」とか言ってみるモンです。頭悪いですね。
「・・・俺さ、嬉しかったんだ」
「何がだ?」
グレンはイルランザーに添えた青リンドウを見下ろし、苦笑します。鈍い相手を好きになると大変ですね。
「カーシュが俺と一緒に来てくれた事」
「そうか」
カーシュはぐいっとグレンを引き寄せるとその唇に口付けました。
「カ、カーシュ?」
グレンが顔を真っ赤にして辺りを見回します。どうやら他に人はいないようです。グレンはほっと息を付きます。
「仮にもここは墓前なんだからそういう事、止めろよ」
全くです。ガライの亡霊が「ウチの息子にぬわにを(何を)するぅ!」と吠えながらイルランザー振り回して来ても不思議はないでしょう。
「別に良いじゃねえか」
良くありません。見せ付けられるガライの身にもなって下さい。いや、実際は亡者の島にいるんですが。
「・・・・・・ま、いいか」
グレンが諦めたように肩の力を抜きました。流され易いのは危険ですよ?
「んじゃ、帰るぞ」
カーシュはグレンの腕を掴むとさっさと霊廟から出て行こうとします。
「わ、わかったから腕・・・・・・」
離してくれと言おうとした声が途切れます。
どうやら本音は離して欲しくなかったようです。
ここは本音に従う事にして、グレンは腕を掴まれたままカーシュの隣りを歩きます。
それなりに、幸せなのかもしれませんね。
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