「なあ、蛇骨饅頭でも食うか?」
「はあ?!」
突然何を言い出すんでしょう、この男。カーシュは露店を見たままそう言います。
やはり先程食べずに出てきたからでしょうか。先程から視線が無意識に食べ物屋の方ばかり見ています。
「カーシュ、別に俺の用事に付合わなくていいからなんか食べてきたら?」
グレンが苦笑しながらそう言います。
「ん〜・・・そうだな、そうするわ」
カーシュはグレンに軽く手を振って別れました。とにかく何か食べようとその辺の店に足を運びます。
「あ、カーシュ!」
ふと知った声に呼び止められ、カーシュは振り返りました。
「よォ、マルチェラ」
こちらに向かって小走りに寄って来たのは同じ四天王のマルチェラでした。
ああその姿のなんと愛らしい事。もうくらくらで・・・ってこれは作者の趣味でしたね。ハイ。
「どうしたの?今日は寝てるって言っていたじゃない」
マルチェラが小首を傾げて見上げると、カーシュは「そんな事も言ったっけか」と頭を掻きます。
自分の言動には責任を持ちましょう。
「で?これからお昼御飯なのか?」
「ああ、まあそんなトコだ」
マルチェラは「それなら」とカーシュの手を引っ張ります。
「あっちの店にしよう?」
「は?何だ、お前も来るのか?」
「ケーキでも奢ってよ」
ぐいぐいと引っ張られ、カーシュは一件の店に連れて行かれました。その明らかに女性向であろう店内は、当然の如く女性客が多く、マルチェラに引かれて入ったカーシュは、四天王であると言う事もあり、随分と注目を浴びます。
だがしかし、カーシュがそんな事気にする訳が有りません。マルチェラがベリータルトを頼んだついでに自分もモカケーキを頼んでいます。
「ここのケーキはどれも美味しいんだ♪」
暫しして運ばれてきたタルトを口にしながらマルチェラは満足気に言います。
「お前、最近オフ日見ねえと思ったらここに来てやがったのか・・・」
「当然。オフくらいあのむさっくるしいトコから出たいわよ」
「ふーん」とカーシュがダレた返事をしていると、マルチェラが二つ目のケーキを注文しました。
こんどはオペラです。
「・・・・・・太るぞ」
「なんか言った?」
「いや、なんでもねえ!」
キラリと金属糸を取り出され、カーシュは手をひらひらと振ります。
「そぉ?ならいいわ。あ、すいませーん!ミルクティー追加ね。葉はカタラトゥーで」
「かたら・・・?」
聞きなれない言葉にカーシュは首を捻りメニューを見ました。
「・・・・・オイ」
カーシュが顔を引き攣らせてマルチェラを見ます。
「何よ」
「奢られる方は遠慮して安いモン頼まねえか?普通」
「何でよ。他人のお金だからこそ、よ」
ええ、そうです。マルチェラが頼んだのは飲み物の中で一番高価なものでした。まあ高いといってもそれほどでも有りませんが。とりあえず蛇骨饅頭一個分くらいでしょうか・・・。
「・・・・・・今日だけだからな」
渋々とモカケーキの最後の一欠けをばくつき、そんなカーシュにマルチェラはくすくすと笑い出しました。
「ふふ、ありがと、カーシュ」
普段は殺人形と呼ばれ、妖艶な笑みを湛えていたマルチェラの、年相応な愛らしい笑みにカーシュは目を丸くし、かたりとフォークを置くとカーシュは苦笑しました。
「どーいたしまして」
多少財布は痛んだが、まあ、良いとしよう。

こんな日も、偶には良いかもしれません。
カーシュはついでとばかりに自分もコーヒーを注文しました。





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