「座れば?」
カーシュの言葉にギャダランは首を横に振ると口元を覆っている赤い布を取り払いました。なんだか固そうな布です。これも武器なんでしょうか。何に使うんでしょう。
「へえ、案外普通なんだな」
布の下から現れた顔の下半分にカーシュは目を丸くします。布を取ればフツーの顔色の超絶悪い髪型が妙な兄さんで通ります。多分きっと。10人に1人くらいはそう言ってくれるでしょう。
「顔はいじりようが無かったらしい」
そう言って受け取った実を口にします。
「美味いか?」
「酸味は微かに感じられる」
どうやら味覚は改造された所為でぱっぱらぱーらしく刺激のある酸味なら微かに感じられたようです。
「ふーん?てめえ、普段何考えて生きてんだ?」
「戦う事だ」
即答されカーシュはふーーーーーんと無駄に長く呟きました。
「触って良いか?」
「お前は俺に勝った。好きにしろ」
以前カーシュさんとギャダさんは勝負をしましてですね、何とかカーシュさんが勝利を収めたのですよこれが。
二人とも腕試し好きなのでぶつかったのは必然であったと言うか何と言うか。ちょーっと周りが大迷惑だったりしましたが。
ギャダランが膝を着き、手の届く所まで身を低くするとカーシュはギャダランの頬にぺたっと触ってみました。冷たいです。一応人肌な感触はしますがちょっぴり固めです。
「てめえ、こうなる前はどんなだったんだ?」
「さあ。覚えてない」
会話が続かねえ。カーシュさんは珍しく頭を使って次の話題を探しますが所詮無い知恵を絞った所出てくる筈も無くカーシュにとってはなんとなーく気まずい空気が流れます。
「もう良いのか?」
「あ、ああ・・・」
はっと我に返り、そういえば頬に触ったままだったと思い出して慌てて手を引きます。
「なら今度は俺が触っても良いか」
「は?ああ、いいぜ?」
思いもよらぬ申し出にカーシュは目を丸くしましたがあっさりと承諾します。ダリオ辺りが見たらムンク状態になっていそうです。
基準より二周り以上大きいだろう手がカーシュの頬に触れ、その冷たさに軽く顔を顰めます。
「・・・暖かいな」
「てめえが冷てえんだろが」
「そうだな」
微かに唇の端を持ち上げて笑うと、カーシュはへえ、とまたまた目を丸くします。
「お前、ちゃんと笑えたんだな」
「お前の様に感情豊かではないが多少は残っている」
感情を完全に消すなど無理に近いとギャダランは他人事の様に言います。まあ彼にとってはどうでも良い事なんでしょうが。
ギャダランは暫しそうやっていると不意に顔を近づけ、唇を合わせてきました。
「!?」
カーシュはこれまた吃驚仰天(だから古いって)しているとギャダランは何事も無かったかのようにカーシュから手を引き、離れました。
「な、な、な、何しやがる!」
漸くその一言を引っ張り出すとギャダランはあっさりと
「したかったからだ」
と答えてくれちゃいました。まあ確かにしたくなけりゃしないわな。
「お前はどこも暖かいな」
「そ、そりゃありがとよ!」
こうなってくると何故お礼を言っているのか最早さっぱりです。とにかくカーシュは真っ赤になりながらわたわたしています。あら可愛らしい。ふふふ。
「人間には、体温があるのだったな・・・忘れていた」
「・・・てめえだって人間だろうが」
「俺がか?」
カーシュの何故か不機嫌そうな言葉にギャダランが僅かに驚いたような表情をしました。
「当たり前だろ。てめえだって人間だ」
その言葉にギャダランは沈黙しました。なにせ兵器として扱われるのが当たり前だったのでこれはかなり新鮮でした。
「・・・・・・そうか、人間か」
「おうよ」
ギャダランの言葉に当たり前だと答えるカーシュ。
「お前といれば、俺は無くした何かを取り戻せるかもしれない」
「おお、取り戻してもらおうじゃねえか」
カーシュは手を伸ばし、その血の気の無いギャダランの手を握り締めました。
自分の温もりが、彼を暖めてくれるように、と。
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