「悪い、今日は止めとくわ」
苦笑してそう言うと、セルジュは「そお?」と首を傾げます。
「それじゃ、また今度一緒に食べようね」
セルジュは手を振ってカーシュの前から去っていきました。
「・・・ちょっと勿体無かったな・・・」
カーシュは苦笑するとさっさと昼食を食べる店を決めます。
「・・・ま、あそこでいっか」
適当に店の目星を付け、カーシュは向かいました。
「よォ、ここいいか?」
本日のお勧めメニュー、蛇骨定食Cセットのオニオンスープを啜っていると何と無くむかついた覚えのある声が掛かりました。
「・・・・・・てめえか」
それでも物食うのは止めずに相手を見上げると、その人物は勝手にカーシュの向かいに座ります。
「いや〜、飯食いに来たんだけどよ、どこも満席で困ってたんだ」
あっはっはと豪快に笑う少女、キッドは注文を聞きに来たウェイターにエビピラフを注文しました。
カーシュはさっさと食べ終えてしまおうと、食べるスピードをアップさせます。
「なあ、そんなに急いで食うと太るぞ」
余計なお世話です。寧ろカーシュは食べた分以上に動き回るので燃費は良いのです。
「なあ・・・」
話し掛けられようとカーシュは黙々と白身魚のムニエルをぱくついているとキッドは何か思い付いたようににやりと笑います。
「俺とセルジュに逃げられたのがそんなに悔しかったのか?」
がしょん。
カーシュの持っていたフォークが更に落ちました。どうやら図星だった様です。
亡霊を捕まえてこいとヤマネコに命令されて岬へやってきたカーシュは負けこそしなかったのですが不意を付かれてすたこらと逃げられたのです。
それはそれで、「逃げちまったモンはしゃあねえ」で済ませたい所だったのですが、何せ命令を下したのはあのヤマネコ様。あの後それはもう口に出せないような恥ずかし・・・じゃなくて恐ろしい折檻が・・・
「・・・あら?図星?」
「・・・うるせえ。食事中は静かにしろって習わなかったのか?」
「おや、これは失礼した」
ふざけてそう言うキッド。その言い方がヤマネコに似ていてカーシュは余計不機嫌です。
「エビピラフお待たせしました」
ウェイトレスがエビピラフをキッドの前に置いて、「ごゆっくりどうぞ〜」と一礼して去っていきます。
キッドは「イタダキマス」と呟いてスプーンをとります。
が、すぐに元の場所に置いてしまいました。
「ん?」
カーシュが炒飯を食べるのを止めてキッドを見ます。キッドはカーシュの口元を見ると、手を伸ばしてカーシュの口端に触れます。
「ガキじゃねえんだからもっと行儀良く食えよな」
ちょっと呆れたように言いながらキッドはカーシュの口端に付いていた米粒を摘まむとさも当たり前の様に自分の口に運びました。
「ばっ・・・バカなことしてんじゃねえよっ」
店内だと言う事から一応声は抑えて怒鳴るカーシュ。耳紅いです。
こんな事はダリオ以外にされた事の無かったカーシュです。何か言おうとしますが頭の中はトルネード状態です。
「あ?勿体ねえだろうが」
これだからイイトコ出はと言わんばかりの表情にカーシュは詰りました。
確かにカーシュはそれなりの環境で育ってきた為、食うに困ると言う事は有りませんでした。
「・・・俺んトコは食いモンも、着るモンもルッカ姉ちゃん一人で全部賄ってたんだ。余り発表したく無いって言ってた研究だって金の為に発表した事もあった」
「・・・・・・」
「・・・いけねえ!さっさと食わねえと冷めちまうぜ」
キッドははっとしてスプーンを取ると、辛うじて湯気の立っているエビピラフをかっ込みます。
「・・・なあ、小娘」
「小娘じゃねえっつってんだろ!」
「なら嬢ちゃん」
何故そこで名前を呼ぶと言う発送が出ないのか。キッドもどうやら諦めたらしく、大きな溜息を吐きます。
「今、小僧達と一緒に居て、楽しいか?」
問われた事にキッドは暫し「何じゃそりゃ」と言った顔をしていましたが、数秒後にはふふんと笑って再びエビピラフを掬います。
「まあ、な」
「そうか」
カーシュはそれだけ言うと、自分も残り少ない蛇骨定食Cセットのサラダにフォークを突き立てます。
馴れ合いはお互い好きではありません。
それでも、理解しようとするのは、されようとするのは、悪い気はしませんでした。
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