「・・・そうだ、獲物無しって言うのはどうだ?」
ダリオの突然の意見にカーシュは「は?」と疑問の声を洩らします。
「無しって・・・体術の方か?」
「ああ。体術は昔手合わせしたっきりだろ」
カーシュは小さく唸りながら考え込みます。確かに最近は武器を使っての勝負しかしていません。
男なら肉弾戦あるのみ。そう言っていたのは誰でしょうね。武器振り回すしか能の無い人間は弱いですよ?
「・・・・やる!」
カーシュはまるでいたずらっ子のような笑みを浮かべ「行こうぜ」とダリオの腕を引っ張りました。
その子供のような仕種にダリオ、理性と本能比率、6:4。危ういです。
「ああ、そうだな」
誰が気付くでしょう。彼のその穏やかな笑みの裏側では第二次世界大戦も真っ青なほどの戦争が行われている事に。一応理性軍が勝ってますがどうやら本能軍は持久戦に持ち込む模様です。これは大変です。粘られれば粘られただけ本能軍は欲望という加勢軍を得てしまいます。
ダリオは理性軍が完全勝利を収めてくれる事を切に願いました。


と、言う訳で戦いました。ええ、省きますよ、勿論
「は〜・・・なんで勝てねえかな〜・・・」
どうやらカーシュはまた負けたようです。ダリオ、内面の戦争パワーを使ったんでしょうかね?
まあとにかく運動して汗をかいた二人は風呂に入ろうと浴場へとむかっていました。
カーシュは全く気付いてませんが、実はダリオ内では本能軍が優勢でした。そのために浴場は風呂番に頼んで人払いをして貰いました。どうやらノンストップモードが入りかかってるようです。
そんなこんなで浴場入り口まで二人は辿り着きました。ダリオは当たりをさり気無く確認し、人気が無い事を確かめるとそっとカーシュの肩を抱こうと腕を回します。

スタアアアンッッ!!!

「「?!」」
まさに後もう少しで腕がカーシュの肩に触れれる所だったダリオと、そんな事にも気付いてなかったカーシュの顔の間(約20cm程)を何かが凄まじい勢いで通り過ぎました。
二人は仰天して飛んできたものを見ると、青ざめました。
なんと壁(コンクリート製)に突き刺さったそれは、生き生きとした青リンドウでした。
カーシュは飛んできた事に驚き、ダリオはそれをなげた人物に恐れ、暫く青リンドウから目を離せませんでした。
「ダリオ、カーシュ」
背後から物静かな声が掛かり、二人はゆっくりと振り返ります。
「手合わせ、見事でしたわ」
にっこりと微笑むんで立っていたのは蛇骨館主の娘、リデルでした。
どこか寒い空気を纏っているリデルに、ダリオは息を呑みます。ですがカーシュは先程のダリオの行動に全く気付いていなかった為に寒い空気自体にも気付きません。
鈍感もいい加減にしましょう。
「ダリオ、少々宜しかったですか?」
にこりと優美な笑みを浮かべるリデル。
「い、いや、汗臭いままお前の傍に行く訳には・・・」
そこを微笑みで躱そうとするダリオ。
「ダリオ・・・どうしても、と申しましても来てはくれませんの・・・?」
リデルは悲しそうな顔でダリオを見つめます。ダリオに泣き落としは効かないと分かっていてなお、リデルは薄らと涙を浮かべます。
「ダリオ!お嬢様がここまで言ってらっしゃるんだ。行ってやれよ」
カーシュがダリオを見上げダリオの背を軽く叩きます。
そう、リデルはこれを狙っていたのです。
「え、あ・・・・」
カーシュは遠まわしにリデルの味方に付かされている事に自分自身気付かないまま「ホラ行けよ」とダリオを急っつく。
「・・・・・わかった」
カーシュにまでそう言われては従うしかないダリオ。
逃した魚は大きい・・・そして女は強し。
ダリオはくっとその苦い言葉を噛み締めながらリデルの方へ行きました。
「さあ、私の部屋でお話ししましょう」


その後、ダリオがどうなったかは知る良しもなし。

 

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