花咲く丘に涙してU
〜如何なる星の下に〜
祈り囚われし者は我を乞う
「始め!!」
ゾアの合図と共に二人の騎士が剣を交える。ギンッと余り耳触りの良くない音を立てながら何度も刃を交え、飛び退いては再び剣を繰り出す。
カーシュは刃を交える二人のまわりに描かれた大きな円の外でじっと観察していた。
一週間に一度、中庭で行われるこの試合では部隊構成での大きな役割を担っている。
選りすぐれた者を選出して小隊長に任じ、他の騎士達は偏りの無い様、各部隊に振り分けるのだ。
本来、この場には蛇骨大佐も居る筈だった。だが、ヤマネコとの話し合いが長引いているのだろう、未だ姿を現わさない。
「そこまで!次!!」
勝負が付き、二人が出て行くのと交替に次の二人が円の中へと入ってくる。再びゾアの掛け声と共に二人は剣を交えて行く。
「……」
それを見ながらも、カーシュの思考は別の所にあった。
(何のつもりだ…あのヤロウ……)
ヤマネコに抱かれてから、早くも一ヶ月が過ぎた。元々、ダリオとの関係で行為自体にはそれほど抵抗感は持ってはいなかった。だが、問題はそれからだった。
一度抱いたきり、ヤマネコはカーシュを抱こうとする所か私用を言い付ける事も無かった。最初こそ不審に思いつつも、今でこそカーシュは安堵の息をついていた。
だが、問題は自分にあった。
(クソッ……)
カーシュは忌々しげに小さく舌打ちする。
ヤマネコに抱かれたいと思っている自分がいる。
それが堪らなく屈辱だった。
(ダリオのアホ、ボケ、タコ、ウスラトンカチ、デ(以下自主規制))
カーシュは虚しいと分かっていてもダリオに文句を垂れる。
元々カーシュ自身は性欲に関しては淡白だったが、ダリオは二日と置かずカーシュを求めていた。そのダリオが死んでからは自責や罪悪感でそれ所ではなかったが、こうして気持ちが落ち着いて平穏な日々が戻ってくると、抱かれる事に馴れてしまった身体はやがて餓えを訴え始める。
抱かれる事に馴れた体が自慰や女を抱く事で解消できる筈もなく、むしろもどかしさが残ってそれがカーシュを苛んでいた。
「カーシュ!」
「!!」
はっとして声のした方を見るとマルチェラが自分を見上げていた。
マルチェラは騎士団唯一の女性で尚且つ六歳という異例の最年少だ。彼女が五歳になった頃、ルチアナは少女を騎士団に入団させたいと言って来た。
カーシュやゾア、ダリオは勿論、蛇骨も反対だった。
ならば、試合をしてマルチェラがそれに勝てれば、という条件を蛇骨は出した。これにマルチェラは臆する所か、不敵な笑みでそれを承諾した。
そして、その試合で少女は勝った。
三分と経たぬ内に相手の騎士は地に沈み、その首筋には少女の小さな手刀が当たっていた。
これによりマルチェラは入団を認められ、たったの一年で騎士数人でやっと相手が務まるという凄まじい成長振りを見せた。そして、ダリオを筆頭として蛇骨の側近であるカーシュ、ゾアにマルチェラが加わり、四天王とされた。
「全員終ったよ」
「ああ…なら二十分の休憩!解散!」
カーシュの言葉に騎士達は散り散りになっていく。するとマルチェラがカーシュのもとに残った。
「ん?どうかしたのか?」
じっと見つめてくる少女を見下ろすと、勝負してよ、と言われた。
「はぁ?」
カーシュが素っ頓狂な声を上げると、その声に幾人かの騎士が視線をこちらへ向ける。
「ダリオがいなくなった今、誰がここを纏めるか決めるんだ」
挑発的な笑みにカーシュは肩を竦める。
「別に決めなくともやっていけるだろ」
素っ気無く言うとマルチェラはツンと唇を尖らせた。
「本当の事を言う。あたしはカーシュと戦ってみたい。自分がどの辺りまで強くなったのかが知りたいんだ」
先程までの笑みは消え、真摯な眼差しにカーシュは閉口する。
この少女の強さは認めるが、自分やゾアと試合うにはまだ早いと思っている。
「………」
だが、この少女の実力を知ってみたいという思いもある。
ルチアナの話では十本近くもの鋼の糸を操るのだと聞いた。それも見てみたい。
「……いいぜ」
にっと笑いそう答えると、一人の騎士が彼のアクスを持って来た。騎士が両手でようやく持ち上げているそれをカーシュは片手で受け取る。カーシュのアクスは破壊力を上げるために重量が通常のアクスより遥かに重い。彼の父親が彼のために打ったものだ。
カーシュとマルチェラが中庭の中心へ移動すると、騎士達は一様に庭の隅へと寄っていく。自分たちの試合と彼らの試合では規模が違う事を彼らは知っていた。
「俺は今イライラしてんだ。手元が狂って怪我しても知らねえからな」
そう言って構えると「そっちこそ」とマルチェラも構えた。
合図を無しにマルチェラが地を蹴った。
「ハッ!!」
強く跳躍し、カーシュの脇腹に蹴りを仕掛ける。威力を確かめたい事もあり、カーシュはそれを腕で防いだ。固い靴の威力もあって、思ったより力が強い。
蹴りを防がれ、着地と同時にサマーソルトを繰り出すマルチェラにカーシュは飛び退いて少女のいる場所をアクスで薙いだ。
息を飲む騎士たちの姿は、最早二人には映っていない。
カーシュは力を、マルチェラは素早さを。
それぞれの特性を活かし、二人は戦っていた。
マルチェラの手刀を一歩退く事で避けようとしたカーシュは彼女の手が光を放ったのを見た瞬間、反射的に横へ大きく飛び退いていた。
「これが…!」
カーシュの口から驚きとも喜びともつかぬ声が漏れる。
先程までカーシュがいた地面には何本もの銀糸が深く突き刺さっている。
その銀糸は少女の指の間から出ており、先ほどの光は銀糸が光を反射したものだろう。
「人に向けて使ったのは初めてだ」
銀糸を引き抜き、頭上で円を描くように回す。シュンッと空気を震わせて銀糸がカーシュの左腕に巻き付いて食い込んでいく。
「へえ……」
細いだけあってマルチェラが糸を引けば引くほどカーシュの左腕を締め付ける。
「本気で戦って。あんたがこんなに弱い筈ないでしょう?」
カーシュは軽く目を見開く。この少女に手を抜いているのを見抜かれているとは思わなかった。
「ふっ……」
カーシュは知らぬ内に笑っていた。久し振りに血がざわめくのを感じる。
ギシィンッ!
「!!」
銀糸をアクスで断ち切られるとマルチェラはすぐさま指に残った糸を手繰り寄せ、次の一撃のために再び糸を指に絡めた。
「思ったより時間を食ってしまったようだ。申し訳ない事をした」
「いや、試合進行はゾアとカーシュに一任してある。構わぬよ。…ん?」
話を終らせた蛇骨とヤマネコが中庭へ向かうと、そこにはシンと張り詰めた空気が漂っていた。
その中心で銀糸で繋がった少女と青年。
ギシィンッと軋んだ音を立てて糸が切断される。
ヤマネコが蛇骨を横目で見ると、彼は二人をじっと見るのみで止める気配はない。ヤマネコは視線を中庭の中心に戻し、カーシュを見る。
彼は、笑っていた。
左腕に絡んだ糸をそのままに、彼は再びアクスを構え…笑みを、消した。
「…っ……」
蛇骨だけではなく、ヤマネコも息を呑んだ。
カーシュを取り巻いていた空気が一転したのだ。
まるで野生の虎が現れたようだ。
それは、少なからずヤマネコに衝撃を与えた。
「っらァ!!」
地を蹴り、体重を乗せてアクスで薙ぎ払う。
「くっ…!」
後ろへ跳びマルチェラはそれを避けたが薙ぎ払った瞬間にできた鎌鼬に頬を小さく裂かれる。マルチェラはより高く跳躍し、それを逃れると同時に銀糸をカーシュへ突き刺す。
だが、それも地に突き立っただけでカーシュの姿はない。
「なっ!?」
着地したマルチェラが声を上げると同時にヒヤリとした感触が首筋に当たる。
「!!」
マルチェラは一瞬体を強張らせたがふっと溜息と共に体の力を抜いた。すると首筋に当たっていた感触が消え、マルチェラは立ち上って背後に回り込んでいたカーシュを振り返る。
「勝てるとは思っていなかったけど、ここまで早く負けるとは思わなかった」
悔しそうに服の汚れを払うマルチェラの頭にポンッと手を乗せ、カーシュは笑った。
「俺様を本気にさせただけでも凄ぇさ」
マルチェラは「そういう事にしておく」と溜息を吐いた。
「カーシュ、マルチェラ」
重みのある声で呼ばれ、二人はハッとして振り向く。
「「大佐!!」」
二人は慌てて姿勢を正した。
「無断で四天王同士での試合を行った事に関しては短慮である。だが、素晴らしい試合であった」
「あ、ありがとうございます!」
二人が一礼すると、蛇骨は頷いて訓練を再開するよう言った。カーシュは指示を一同へ伝え、自らも指導のために騎士達の中へと混じっていった。
「オラ、んなへっぴり腰で勝てる訳ねえだろ」
先程の試合で負けた者を中心にカーシュは指導を加えていた。
「そうだ。剣の切れ味に頼るんじゃねえ」
その騎士からふと視線を移し、カーシュは体を強張らせた。
ヤマネコと、目が合った。
彼は視線を逸らすことなくカーシュを見ている。
カーシュは視線を逸らすと知らぬ素振りで騎士達に指導を再開する。
ヤマネコが見ている。
無視を決め込もうとすればするほど、余計にその視線が絡み付いてくる気がする。
全身を撫でられているようなその感触に、カーシュは唇を噛んだ。
「どういうつもりだ」
その夜、客室を訪れたカーシュは怒気を孕んだ声でヤマネコに問うた。
「何処を見ようと私の勝手だろう」
もっともな言い分にカーシュが言葉を詰らせる。するとヤマネコは椅子から立ち上がるとカーシュへと歩み寄った。
「視姦されている気にでもなったか」
「ちが…っ!」
反論しようとすると突然下肢を握り込まれ、カーシュは言葉を詰らせる。
「私に抱かれた感触を思い出したのであろう?」
そこをやんわりと揉みしだかれ、カーシュは羞恥から頬を紅潮させ、視線を逸らす。
「それで?お前はそれだけを良いにわざわざ来たのか?」
「……っぅ……」
服越しに与えられる刺激にカーシュは膝が震えそうになるのを堪える。だが、幾ら不本意であろうと体がその刺激に耐えられず、とうとうカーシュはぺたりと座り込んでしまった。
「ぁ……」
「どうした」
くつくつと低い声が頭上から降ってくる。
「カーシュ、お前がここへ来た目的は何だ?」
全て分かっていてそう聞いてくるヤマネコに腹立たしさを覚えながらも、この体の飢えを満たせれるのはこの男以外にいないのを嫌というほど知っている。
「お、れを……」
屈辱に塗れ、カーシュは絨毯に爪を立てる。
「俺を……抱いて、下さい……」
カーシュの言葉にヤマネコは口元を歪めて笑った。
「ならば、どうすれば良いか…分かっておろう?」
その言葉にカーシュはのろのろと膝立ち、ヤマネコのズボンのベルトを外していく。
「……」
ヤマネコのそれを取り出し、手を添えると恐る恐る咥え込んだ。
堕ちるしか、ないのだ。
「んっ、ぅ……」
その質量に顔を顰めつつも、硬さを増していくそれを舌で扱く。
ダリオを斬った時、全ては定められたのだ。
「…は……んっ……」
髪をゆるりと梳かれただけで背筋に痺れが走り、全身が過敏になっているのが分かる。
「立て」
カーシュが濡れた唇を手の甲で拭い、立ち上ると腰紐が解かれて服を全て床へ落される。
壁を顎で示され、カーシュは壁に両手をついた。
すると後部にヤマネコのそれが押し当てられ、カーシュは体を強張らせる。
「いきなり入らね……んっ…」
挿れられるわけでなく、そこを肉棒で擦られ、カーシュは身震いした。
「ぁっ…はぁ……!」
先端がそこから侵入し、馴らされていない痛みと痺れるような快感が走る。
だが、それがカーシュの奥を突く事は無く、引き抜かれては再び先端のみが侵入し、そこを嬲る。
「……っう……」
その中途半端な刺激に、カーシュは次第に焦れ始めていた。
「も……挿れて、くれ、よ……」
カーシュの懇願にヤマネコは低く笑うとカーシュの耳元に顔を寄せた。
「なっ……」
囁かれたそれにカーシュは怒りを露わにする。
「ふ、ざけんなっ…!」
「では他の者に抱いてもらうのだな」
「…っ……」
その言葉にカーシュは言葉を詰らせ、促すようにヤマネコの手がカーシュの喉を滑る。
「くっ……」
恥やプライドを持つことすら、許されない。
あの島での出来事の隠蔽、そしてダリオの遺体と引き換えに、自分はヤマネコに隷従する事を選んだのだ。
「俺、の…×××に、ヤマネコ様の×××を…下さい…」
羞恥や怒りで涙が滲む。
「良いだろう」
ヤマネコはカーシュの腰を掴むと、一気に己を突き刺した。
「―――ぁっ!!」
ヤマネコのそれに突かれた途端、カーシュは呆気なく達してしまい、絨毯の上にその白濁とした精液を撒き散らした。
「挿れただけでイクほど溜まっていたのか?」
背後から笑いを含んだ声で問われ、カーシュはきつく唇を噛んだ。
「あっ……」
「しかもココはイキ足りないようだ」
達しても未だ硬さを失わないそこをヤマネコの手が弄ぶ。
「ヒッ…ァ…!」
陰嚢を鷲掴みにされ、カーシュは小さく悲鳴を上げた。
「お前は嬲り甲斐があって良い」
ザラリと肩口から項にかけて舐め上げ、びくりと震える体を男は楽しむ。
「…はぁ……んっ…」
ヤマネコが動き始め、カーシュは壁に爪を立てる。爪を突き立てられた土壁が微かに欠けて爪と肉の間に挟まった。
「っ、ぁっ……!」
だが、それすら気にならないほどの激しい律動にカーシュは髪を振り乱し、背を撓らせその甘い痛みを全身で受け止める。
「は、ぁ……ぅ……ぁあっ!」
カーシュはヤマネコのそれをきつく締めつけると、二度目の絶頂を迎えた。そして奥深くにヤマネコの熱が注ぎ込まれるのを感じ、カーシュは震えた。
全身が、喜びに震えている。
「ぁっ……」
ずるりと引き抜かれる感触にカーシュは微かに身悶えた。
どれだけ反発しようとも、ヤマネコから与えられる快楽を、この体は求めている。
体を離され、カーシュはくたりとその汚れた絨毯の上にへたり込む。
引き返せない、現実。
我ながら、惨めなモンだな。
カーシュは背後の男に気取られぬよう、微かに唇の端を吊り上げた。
その嗤いは、誰よりもカーシュを嘲っていた。
+-+◇+-+
そうでした、すっかり忘れてたんですが、これがあったんですよね。伏字。(爆)
これ書いた時、確か「×と…、どっちがエロいかっつったらやっぱ×だよね」とかいって決めた覚えが。
そして今回、細かい所以外は特に変えませんでした。なので短め。ていうか、叫びっぱなしでまともに集中できなかったので。(爆)自分が昔書いたエロって目も当てられません。今だって真夜中だと言うのに「ギャー!イヤー!」とか絶叫しまくってたんですから。(堂々と言うな)
でも次の話もエロ。グレカー。キャア。(叫び疲れてテンション低)しかもこのグレカー、エロを書くのが面倒でモノローグ形式にしてかなり端折った。
それにしても、IFと交互に書いている所為か脳みそこんがらがりそうです。ついうっかりこっちでヤマネコ様とカーシュをいちゃこらさせそうになって慌てたり。
(2002/11/13/高槻桂)